003星田翔五「堕天使の契約 その1」
パリ近郊某所、地下18階(地下200m)
ガランと何もない倉庫の様な部屋はそれ自体が巨大な電子レンジになっていて、要すればその部屋の中心部に置かれた物質を24時間365日数千度のプラズマに曝し続ける事が出来る仕組み。 更にその堅牢な構造・複合材質は15ktの核爆発に耐える剛性強度耐熱放射線遮断性能を備えている。
件の場所には鋼鉄の檻に全身を拘束された一人の女。 少なくとも全裸に剥かれたその外見は人間の女の様に見えるが、水も食料も与えられなくなってから既に数か月が経過しようとしている。 しかも女の胴体には長さ3m余りの細長い槍が恐らくその心臓を貫通しており、後頭部にはその頭蓋骨からはみ出す格好で小型の核爆弾が起爆可能な状態で埋め込まれていた。
それなのに女はまるで生きているかの様に、にやりと不敵な笑みを見せる。
女の正面に立つのは一人の日本人の男。 身長は160cmあるかないか、軽く肥満目の体型、ヒラメ顔と一重の吊り目、凡そ脅威と名の付くあらゆるモノとは縁が無さそうに見える。
女:「お前以上にふさわしい人間はこの世に存在しないと思うぞ、」
男:「僕の手に余るよ、そんな大それたモノは、」
男:「と言うか、そんなモノを人間に与えちゃ不味いんじゃないのか?」
女:「これは「外なる神」の決定事項なのだ、お前がソレに脅威を感じるなら、それこそお前がソレを授けられるのに相応しい管理者なのだとは思わないのか? お前が辞退すればソレは別の誰かに授けられるだけだぞ、」
男:「お前の神様って、そんなモノを人間に与えて一体何がしたいんだ?」
女:「神の意志など、お前には疾っくに解っている筈だろう、」
女はもう一度、耳元まで裂けた口でにやりと笑った。
一部始終をコントロールルームから見守っていた数名のスタッフの元に、先ほどのヒラメ顔日本人が戻って来る。 彼の潜ってきた何層ものハッチが重厚な音を響かせながら一つ一つ確実に閉じられていく。
凡そ、この場に似つかわしくない派手なピンク色のジャケットに身を包んだピンク色の髪のニューハーフが、ヒラメ顔日本人を、睨み付ける。
ピンク女男:「それで、アンタ、コレどう落とし前付けるつもりよ?」
ヒラメ顔:「山猫(=ピンク女男)、何でもかんでも僕に押し付けるなよ、」