023葛葉毅「144000分の1の少女 その5」
やがて二人は、サン・ドミニク通りを、幾ブロックか進んで、ジャン・ニコ通りとの角にある、可愛らしいお菓子屋さんに到着した。
三条:「このお店みたいですね、入りましょう。」
お洒落な店内に、所狭しと色とりどりのマカルーン、店の入り口に程近くガラスケースの中には、一口サイズのカヌレが並んでいる。
三条:『Hello, このお店のカヌレがとても美味しいって聞いて来ました。』
店員:『ありがとうございます。是非試してみてくださいね。』
三条が店員と取り留めもないおしゃべりを続ける間、葛葉は先ほどダウンロードした三条茜のデータを再確認する。 赤い警告マークが、彼女が間違いなく「特別な人間」であることを示している。
144000人計画、「世界統一政府」の最大にして最終の目的、例え敵が「神」や「悪魔」であったとしても、全世界から選ばれた特別な144000人の人間だけは、どんな事をしても、生かし続ける。
新しい世界に人類を橋渡しする為の選ばれし民。
この少女が、その一人。
組織の教育や噂では話を聞いた事はあったが、実際に見て、会って、話をするのは、初めてだった。
三条:「お兄さんも食べてみます?」
葛葉:「え?」
不意を突かれて、振り返った葛葉の口に、
三条が、柔らかな一口サイズのカヌレを、押し込んだ。
三条:「とても美味しいですよね。」
程よく弾力を残した焼きプディングのしつこすぎない甘さが、口の中に広がっていく、確かに美味いのだが、…
葛葉:「こう言う強引なのは、余り好きじゃないな。」
三条:「あら、強引さならお兄さんには敵いませんけど。」
葛葉は、女子供と言えども馴れ馴れしくされる事を余り善しとはしない性質だったが、その可愛らしい笑顔を見ていると、不思議な事に文句の一つも言えなくなってしまう。




