022葛葉毅「144000分の1の少女 その4」
三条:「この近くに、美味しいカヌレのお店が有るんですよ。 行ってみませんか?」
葛葉:「カヌレ? その前に、君の保護者と連絡が取りたいんだが、電話は繋がらないのか?」
三条:「そんな事をしたら、折角抜け出したのに見つかっちゃうじゃないですか。駄目ですよ。」
葛葉:「しかし、君のボディガードを怪我させて、君を誘拐した侭じゃ、家族や教師が心配するだろう。」
三条:「それはお兄さんの早とちりの所為でしょ。」
葛葉は、観念したかの様に、苦笑いする。
葛葉:「とんでもないお嬢様だナ。」
三条:「だからもう少し、付き合って下さいね。」
今度は少女が葛葉の手を引いて、長閑な庭園の小径を、エッフェル塔へ向かって歩き出した。
葛葉:「こういう散歩なら、友達と一緒にやれば良かったんじゃないか?」
三条:「実は皆には内緒で、会いたい人が居るんです。 その方は今パリに居るの。 だから私もパリに来たんです。 本当に会えるかなんて、判らなかったけど。」
葛葉:「友達か?恋人なのか?」
三条:「ちょっと違います、どちらかと言えば、恋敵?かな。」
葛葉:「判らないな、どうして恋敵になんか会いたいんだ?」
三条:「だって、憧れの方が、全てを掛けて愛している人なんですもの、きっと、凄く素敵な人なんだと、思うから。」
少女は、少し頬を染めながら、もう一度、胸元のペンダントを握り締めた。
二人は、エッフェル塔の足元を潜り抜けて、ブルドネ通りを南東へ、
三条:「エッフェル塔の鉄筋って、レース模様で可愛らしいんですね、知らなかった。」




