021葛葉毅「144000分の1の少女 その3」
三条は襷掛けにしていた小さな革製のポシェットから、厳重に仕舞われたパスポートを取り出して、葛葉に見せた。
 
葛葉は、腰のベルトにぶら下げた小物入れから、スマホを取り出して、カメラでパスポートをスキャンする。
 
数秒後、検索された画面に、少女の個人情報が映し出される。最新の身体測定情報から学校の成績、過去3年の商品購入履歴、インターネットのアクセス履歴、送受信メール履歴まで! そして画面の端に現れる赤い「警告」が、少女が「144000人対象者」である事を示している。
 
三条:「あっ、お兄さん、肖像権の侵害ですよ!」
 
スマホの画面に自分の写真を見つけて少女は、少し膨れっ面で抗議し、
 
葛葉:「すまなかった。 君の素性を調べさせてもらった。確かに、君は特別な警護を受ける立場の人間らしいな。」
 
葛葉:「兎に角、次の駅で降りよう、それで信用できる保護者の所まで俺が君を送り届けるよ。 それから、あの連中がテロリストでなくて私の早とちりなら、直ぐに引き返して謝らなきゃな、」
 
少女が、少し、悪戯そうな上目づかいで微笑んだ。
 
三条:「お兄さん、突然誘拐された私には、何にもお詫びしてくれないんですか?」
 
葛葉:「そうだな、どうすれば良い?」
三条:「そうですね、折角だから、一寸、付き合ってもらえないですか?」
 
葛葉:「付き合う…?」
三条:「実は、私、何とか抜け出すチャンスを伺っていたんです。」
 
葛葉と三条は、シャイヨー宮の近く、トロカデロ駅で地下鉄を降りる。
エッフェル塔の真正面、庭園を望む展望台の様なベランダには、世界中から集まった多くの観光客と、ソレ目当ての一寸怪しげな売り子で溢れていた。
 
葛葉:「それで、何処に行きたいんだ?」
三条:「私、こんなに近くでエッフェル塔を見るの、初めてです。」
 
無邪気に、雑踏の広場へと足を踏み出していく少女に、仕方なく葛葉が続く。
 




