002フリオ・キャンデラ「仮面男 その2」
一台のタクシーがガルニエ(オペラ座)に程近い通り沿いの一軒のホテルの前で停車した。
ドライバーはトランクからスーツケースを取り出して、ホテルのポーターがすかさずそれをフロントへと運んで行く。 仮面の男が後部ドアから降りて来てドライバーにチップを渡し、タクシーは直ぐに走り去る。
レセプション・クラークは仮面を被った男に戸惑いを見せながらもテキパキとチェックインの手続きをこなし、デスクの棚から一通の封筒を取り出して、仮面の男に手渡した。
クラーク:『お手紙を預かっております。』(注、『』はフランス語)
一流ホテルマンとは言えども多少の動揺は隠しきれない
仮面男:『気を遣わせてすまないね、必要以上にホテル内をうろつかない様にするよ。 朝食は部屋に届けてもらえるかな。』
クラーク:『勿論ですキャンデラ様(=仮面男)、どうぞご自宅と思ってお寛ぎ下さい。 必要なものは何なりとお申し付けください。』
その時、数名の日本人の女の子達が嬌声を上げながらホテルのロビーを横切り、回転ドアを潜ってパリの街へと繰り出して行く。
クラーク:『すみません、修学旅行で滞在している日本の高校生達です。 生徒達だけで一週間海外旅行すると言うコンセプトらしくて、引率の教師もいないので時々羽目を外してしまう様です。後程注意しておきます。』
仮面男はチェックインの書類に署名しながら、女子高生達を一瞥する。
フリオ:『いや、構わない、取り立てて注意してくれなくてもいいよ。』
クラーク:『恐れ入ります。』
仮面男は部屋の前でポーターにチップを渡し、ドアを閉めて補助錠を掛ける。 トレンチコートをクローゼットに掛けて、ソファーに腰かけて、先ほど受け取った封筒を開けた。
中に入っていたのは、パリ周辺の地図と、数枚の写真。 写っているのは、可愛らしい日本人女子高生と、トルコで良く見る青い目玉のアミュレット
フリオ:『アカネ・サンジョー、若いのに、…気の毒だったな、』