019葛葉毅「144000分の1の少女 その1」
フランクリン・D・ルーズベルト駅、地下鉄M9 西行きホーム。
一人の男が、柔らかな少女の身体を庇うように抱きかかえながら、閉まりかけた地下鉄の扉を無理矢理こじ開けて、強引に飛び乗った。
車内に居た乗客達が、迷惑そうな顰め面を浴びせるが、鍛え上げられた男の体躯を目の当たりにして、それ以上には何も言えなくなる。
少女は、少し困った風な顔で頬を赤く染めながら、じっと男の顔を見つめる。
少女:「あの、何か、ご用でしょうか?」
男は、人差し指を口に立てて「Be quiet!」のジェスチャ、
それから走り出した車両のポールに捕まって、少女を支えながら、漸く、ずっと握りしめていた手を、そっと放す。
少女の耳元に、唇を付けて、…
男:「5秒だけ、じっとしていてくれ。」
そう言うと、男は抱きすくめる様に少女の首に腕を回して、暫し此処其処を弄った後、
少女:「っ……!」
ブラウスの襟首から、指先にやっと摘まめるサイズの小さな、ごみ屑? ひっつき虫(センダン草)の様なモノを抜き取った。
少女は、顔を真っ赤に紅潮させながら、肢体を硬直させる。
男が掌の上に転がして観察するその小さな植物の種子の様なモノは、…超小型の精密部品?
男:「これが何か、知っているか?」
少女:「いえ、…何なんですか?」
男:「そうか、驚かせてすまなかった。 私は葛葉毅、政府の職員ミタイナものだ。 君に危害を加えるつもりはない。」
葛葉:「今君の服から取り外したコレは、特別な業界で使われている発信機の一種だが、使い方次第では遠隔操作で君に幻覚を見せる事もできる。あるいは、予め隠しておいた起爆装置に君が近づく事で、爆弾を爆発させる事もできる。」




