134 葛葉 毅:「大逆転 その7」
山猫:「お前、死んだんじゃなかったのか?」
翔五は、フラフラと自分の死体に近づいて、確認する。
翔五:「確かに、確り死んでるな、…苦しませずにヤッテくれて有り難い事だ。」
山猫:「これは、何の冗談なんだ?」
翔五:「冗談じゃないさ、ちゃんとした、れっきとした現実だ、」
アリア:「此の世界は、翔五と私達が一緒に暮らせなくなると、その時点でゲームオーバーになる様に作ってあるの。」
アリア:「そして私達は、バックアップしてあった少し過去の時点の世界に移って、危険要因を発生時点から排除・調整して、やり直すのよ。」
翔五:「今回の場合は、髭男と青目を生まれなかった事にするとか、或は、アバドンに感染して死んでた事にするか、…いっその事アバドンの目玉が盗まれなかった事にする処まで巻き戻しだな、」
アリア:「それに今回は、外部からの侵入者を最初から来訪しなかった設定にするのに一寸手間取ったけど、…」
翔五:「まあ、俺達が作った世界だからな、不完全な所も多くって、こう言うバグ取り機能を付けてある訳だ。」
山猫:「世界をやり直すって、じゃあ、この世界はどうなるんだ?」
翔五:「デフォルトでは、消去する事にしてある。 幾らデータ容量が無制限だと言っても、作成途中の世界が山と積もれば、何が何だか判んなくなっちまうからな、但し、…」
翔五:「一応、毎回、お前に確認する事にしているんだ。…世界中で、唯一俺との交渉権を持っている「山猫」にな、」
翔五は、山猫の前に立って、こんな緊急事態等、何のシリアスでも無いかの様に穏やかに、…
翔五:「山猫、お前はどうしたい? 此の世界、此の侭消去したいか? 勿論、やり直しの世界にもお前は居るから、キャスティング上の心配はしなくても良いぞ。」
翔五:「それとも、この外津神に侵略され掛かっている世界で、身体張って見るか? もう俺は死んでるから、力は貸してやれないけどな。」
翔五:「何だか、仕事上の立場も怪しくなってるみたいだし、後は惨めな引退生活かも知れないけど、どうする? …兎に角、二択だ、簡単だろ?」
山猫は、翔五と、喜多見と、ジェームスを代る代るに見て、…
山猫:「勝算の無いゲーム程、面白い物は無いからな、此の侭、延長する事にしよう。」
そう、決断する。
翔五:「ま、お前らしいな、…」
葛葉:「星田さん、私は、どうして此の場に立ち会う事が出来たのでしょうか?」
翔五:「頑張ったな、」
翔五は、細い目を更に細めて、ニヤリと笑う。
翔五:「此の世界を継続するにあたって、君に頼みたい事が有る。」
葛葉:「私に?」
翔五:「この世界が継続する間の管理を頼みたい。 そんなに難しく無いよ、…」
翔五:「簡単に言えば、此の世界は、君が生きている間だけ、延長される。 君が死ねば、此の世界は今度こそ本当にゲームオーバーだ。」
葛葉:「どう言う、意味ですか?」
翔五:「余り深い意味は無いんだが、」
万里:「余計な仕事を増やすなって事だ、」
何時の間にか、濱平万里が、出現していた、…
振り返った先に、もう一人の濱平万里は、薬で眠らされたまま、止まった時間に閉じ込められている。
翔五:「コイツは、併存する全ての世界の自分と意識と記憶を連結させているんだ、ここに居るのはコレから再開する方の世界の濱平万里、」
万里:「これ以上いらん仕事を増やされたら、身体が保たねえっての、」
翔五:「と言う訳で、時限付きで世界を一個増やす事を、先程夢の中で相談、合意した。」
山猫:「しかし、葛葉は只の人間だ、それ程長く生きられる保証も無い、…それどころか、後コンマ数秒の内に、鉄砲の弾に撃たれて絶命する予定じゃないか、」
翔五:「そうだな、と言う訳で、少し置き土産してやる。」
翔五は、古びたルミノックス(腕時計)を葛葉に差し出した、
翔五:「此の時計は、君が死を迎える3分前に、赤いライトが灯る様になっている、それで、死の危険が無くなるとライトは消える。 まあ、人類滅亡予知装置、と言う訳だ。」
翔五:「それで、同じく君の死の直前3分間だけ、ミリアムに、俺の5人の聖霊と同等の能力が使える様にしてやる。」
翔五:「ミリアムは未だ未だ進化すると思うよ、「輩」との繋がりが強くなれば成る程「聖霊」の能力は強くなるんだ。」
翔五:「ミリアムと二人で、此の世界を護ってくれ、」
葛葉:「星田さん、しかし、こんな俺なんかに、…」
翔五:「難しく考えてる振りして、自信の無いのを誤魔化してるばかりじゃ、永遠にヒーローになんてなれないぜ、…男なら、時々は勇気を振り絞る必要が有るって事。」
翔五:「さっきは、ちょっと格好良かったぜ、…なあ、万里、」
万里:「全く、詰まんねえ後始末ばっかり押し付けやがってよ、ちゃんと「約束」は護れよ!」
翔五:「分ってるって、」
翔五:「それじゃ、毅、…後は任せた。」
そして、再び時間は、…動き出す!




