119 葛葉 毅:「窮極の門 その1」
葛葉:「判った、」
葛葉は、一旦門を閉めて、もう一度「それっぽい穴」に銀の鍵を差し込んで、…回す。
再び、ガラララという鎖を引きずる様な音の後、…扉は再び少しだけ隙間を空けて、
ミリアム:「さっきと変わんないじゃん、」
葛葉:「行って来る。」
葛葉は、一人で、門をくぐった。
昏い門を抜けて、その先の明るい広場に出た所で、葛葉は貧血の様な立ち眩みを覚えて、…膝を付く、
門:「お前は誰だ?」
と、突然前方から、誰かが呼びかける声が聞こえて目を上げるが、辺りには何も見当たらない?
門:「お前は誰だ?」
もう一度、何処からか声が聞こえて、…
葛葉:「葛葉毅、人間だ。」
葛葉は、意を決して名を名乗る。
門:「照会、権限確認、通行登録した、」
門:「お前は何処へ行く?」
何だか事務手続き的だが、先程ミリアム達と一緒に入った時には無かった現象だ。
これが、ヨグ=ソトースに至る為に必要な手続きなのだろうか、
葛葉:「ヨグ=ソトースに会いに行く、」
門:「最終確認、本当に行きたいのか?」
葛葉:「ああ、そうだ、」
門:「それでは先に進むが良い。」
やがて、先ほどと同じ広場を超えて歩くと、今度は一番背の高い建物の前で、何かが、揺れている?
観ると、…建物の前の六角形の台座の上で、何だか得体の知れない気味の悪いモノが、リズムを取ってハミングしながら、身体を揺らしているのが、見えた。
葛葉:「何なんだ、これは、」
これも、確かに先程は存在しなかったものだ、…鴫野瑞穂の言う通り、この絡繰りは「人間」だけにしか反応しないらしい。
やがて見ていると、台座の上の異形のモノのダンスは、次第に緩やかになり、ゆっくりと、動きを止めて、ぴくりとも動かなくなってから、一二回、ビクっと、寝落ちしそうになって、…それから、どうやらとうとう耐えられなくなったらしく、スースーと、寝息を立て始めた。
と、突然地面が180度ひっくり返って、葛葉は、空に、いや巨大鯨の腹の中の天井?に向って、…放り出された!?
ところが、上空?眼下?には、何故だかピンク色の海?が拡がっていて、…
葛葉は、バラの香りに包まれたピンク色の海の底深くへ、…墜とされる!
やがて、渦に撒かれる様に、上も下も判らなくなり、必死に海面を目指して浮かび上がった、…その目の前には、
穏やかに拡がった岸壁の入り江の奥に、ポツンと、…巨大な石の門が立っていた。
葛葉:「此処は、一体何処なんだ?」
葛葉は天井を見上げてみるが、底には、まるで現実の様な曇り空が拡がっているだけ、
今の今迄、自分は鯨の腹の中に居た筈なのに?
しかし、戻る術も思いつかず、兎に角次のランドマークらしい、石の門まで、行ってみる事にする。
不思議な事に、海でずぶ濡れになった筈の服は、あっと言う間にすっかり乾いていた。 それどころか、ボロボロだった筈のスーツは、まるで新品同様に、傷一つ無くなっている。
葛葉:「もしかして、これは「夢」なのか?」
男?女?:「ご名答、…「窮極の門」の通行パスワードを確認した、ドウゾ此方へ、」
気がつくと、門の反対側に、全身にベールを被った一人の男?女?が立っていた。
葛葉:「お前は、何者なんだ?」
男?女?:「私は「案内人」です、必要ならタウィルと呼んで下さい。」
タウィル:「どうぞ、」
葛葉は、誘われるままに、海岸の小さな砂浜に用意された小さなテーブルに腰掛ける、
タウィルは葛葉にメニューを手渡して、…同時に、銘柄不明の白ワインの栓を抜いた。




