115 願いを叶えるモノ:「奇襲 その5」
そこは、真暗な、「宇宙」?「深海」?
何処か広大無縁の「空間」の中で、「全身を鉤爪付き触手で覆われた糸ミミズの塊の様な醜い肉塊」が、上も下も無く漂い続けていた。
此れこそが「喜多見」の正体であり、「願いを叶える者」と名乗る悪魔の正体である。
別の世界から訪れ、人間の住む世界を、再び支配しようと目論む、外津神の眷属の本体であった。
「彼?彼女?」の目的は、…
大和武琉に取りついた不死生命体を増殖させて、新世界を創造する為の労働力として準備する事、
三条茜を苗床にして、新世界の母となる「聖霊」を孵化させる事、
そして時空改変の能力で、人間から世界を管理する「魔法」を奪い返し、外津神を復権させる事、
今やその内の二つが、またもや星田翔五の手によって打ち砕かれ、…この「何でもあるが何にもない空間」=「可能性のスープ」と呼ばれる、魔法陣の裏側に放り出されたのだった。(注、イーヴィル・アイ、エピソード056)
此の侭消滅するかと思われた「彼?彼女?」だったが、それでも全く途方に暮れていた訳では無い。
現世に戻る方法は既に分かった、完成された召喚呪文は、トリアーナによって「卵」にされた「願いを叶えるモノ」が記憶している。
そして「悪魔」である「願いを叶えるモノ」が、トリアーナの「卵」から復活するのは、それ程遠い未来の出来事ではないだろう。
その時に「願いを叶えるモノ」が「人間」の「望み」を使って、再び「彼?彼女?」を召喚すれば良いのだ、
それで「彼?彼女?」は再び現世に戻り、落ち着いて、今度こそ、ゆっくりと、星田翔五を殺せばいい。
アリア:「それは無理よ、…私が赦さないもの。」
観ると?いや、光も無く目も無い「彼?彼女?」に、その姿がどの様に映ったのかは、解らない。
しかし「彼?彼女?」の直ぐ目前に、手を伸ばせば届く程の距離に、絶対の深さと、絶対の冷たさと、絶対の闇と、絶対の静寂と、絶対の絶望が、対峙している事は、…明らかだった。
でも何故「聖霊」如きが、「こんな処」を自由自在に行き来出来るのだ?
アリア:「私の友達が、貴方の身体に印を付けたの、気付かなかった?」
言われてみれば、鉤爪付き触手の一本に、何時の間にか、…
「ナザール・ボンジュウ」のペンダントが、…括り付けられている、
彼?彼女?:「何だ!コレは?」
アリア:「貴方、知っているかしら、現世に何かを召喚する時に、一番重要な「Key Code」って何か、」
彼?彼女?:「お前は、一体、…何者なんだ?」
アリア:「正解、…答えは「名前」。」
アリア:「今、貴方の名前を、変更・上書きさせてもらったわ、」
アリア:「貴方の名前は、今この瞬間から、「ゾスロコ・エテイサ・イタンヘ」、どう、覚えた?」
彼?彼女?:「ゾスロ、エテ?…? 何?」
アリア:「そして、この事を知っているのは、私と、貴方だけ、」
彼:「いや、ちょっと待って!」
アリア:「だから、私が呼ばない限り、貴方は永遠にこの可能性のスープから召喚される事はない。」
彼:「…もう一回!教えて!」
アリア:「どうせ誰も呼んでくれないのだから、覚える必要なんてないでしょ。」
アリア:「それじゃね、…Good Night.(さよなら、)」
それっきり「彼?彼女?」だけがただ一人、その真暗の空間に、…置き去りにされた。




