110 葛葉 毅:「ボーイ・ミーツ・ガール その9」
ミリアム:「待って!」
キャノピーに浮かび上がる、極少の点滅、
白い三角形の指し示す先、
落下するクトゥルフの真下に、立ちはだかる、…一人の少女の姿、
葛葉:「あの子は、…」
確か、星田翔五の聖霊が一人、「白虎」の「アリア」
アリアはポツンと一人宙に浮いたまま、まるで友達から呼び止められて振り返る程の穏やかな表情で、落下してくる大質量に向かって視線を合わせ、すぅっと、右手の掌をかざす、途端に、…
次々に、キラキラ光る紫色のプレパラートが、…
クトゥルフは、落下しながら、キラキラ輝く紫色の花弁になって、少しずつ、だんだんに、次々と、…あっという間に、バラバラに砕け散って、宇宙空間に向かって、…舞い昇る!
まるで手品の様に、何気なく、さり気無い少女の指先の所作で、
北海道並みの巨大な質量の塊が、…そんなモノは、最初から存在しない只のイリュージョンであるかの様に、一瞬で、全て、…
消滅した。
ミリアム:「嘘!」/葛葉:「一体、今のは、…」
流石に、現実に起きた事だとは、到底、…受け容れられない。
それからアリアは、葛葉の方に振り向いて、まるでスケートで氷の上を滑る様な優雅さで、プロメテウスのキャノピーに辿り着く。
アリア:「こんにちは、」
真空の宇宙だというのに、少女の声は確かに二人に届き、
葛葉とミリアムは、その少女の美貌に精神を囚われて、暫し身動きを、…縛られる。
こんなにも非常識に美しいモノが、現実に存在する造形物だとは、到底、…受け容れられない。
そして、次の瞬間!
突然の衝撃がプロメテウスを襲い!
プロメテウスの外装甲の上に着地する、…濡烏の美女!
瑞穂:「全く、往生際が悪いったら、ありゃしない。」
アリア:「瑞穂は強引すぎるのよ、…コミュニケーション不足ね、知ってた?」
瑞穂:「あのね、原因の半分はアリアの所為だって、知ってた?」
葛葉とミリアムは呆然と、宇宙空間で談笑する、不思議な「聖霊」達の姿に、心を奪われる。
葛葉:「あ、…」
葛葉:「あの、…済まない、…」
ミリアム、二人の「聖霊」に見蕩れる葛葉を、複雑な表情で、…睨みつける、
ミリアム:「私達、万里とか言うヒトの命令で、貴方達に会いに来たの。…これからどうすれば良い?」
アリアと瑞穂が、キャノピーの中の二人を覗き込み、…
瑞穂:「それじゃ、最後の仕上げに行こうか、」
瑞穂は、翔五から渡された「銀の鍵」を指で摘んで、にっこりと微笑んだ、




