106 葛葉 毅:「ボーイ・ミーツ・ガール その5」
ハッチを固く閉じたドームの内側は、温かなオレンジ間接照明の、小洒落た洞窟住居だった。
緩やかで継ぎ目のない室内、幾つかの凹みの様な小部屋には、時代物の調度品が行儀よく並べられている。
大女:『いやぁ、危なかったね。』 (注、『』は英会話)
女は、凡そ身長2mに達しようかと言う痩せの大柄で、まるで病院でレントゲンを撮る時に着せられるような淡いグリーンのスモックを被っている。 肩に届くか届かないかの髪は所々ブロンドも混じった赤毛、おっとりした感じの表情、但し、左目に眼医者で使うような医療用の眼帯をしていた。
見た所、危険や敵意は無さそうだが、何故、こんな所に住んでいる? 何故、葛葉達を助けた?
ミリアムは、葛葉の後ろに隠れて警戒する。
葛葉:『まずは礼を言う、助けてくれて、ありがとう。』
葛葉:『それで、君は一体、何者なんだ?』
大女:『それはちょっと変だなぁ、行き成り僕の家に転がり込んで来た珍入者は、君達の方じゃないか、…まあ、ほっとく訳にもいかなかったけどさ。』
大女は、少し憤慨したように眉間にしわを寄せて、両手の人差し指を、ツンツン押し付ける仕草?
葛葉:『確かにそうだな、悪かった。 私は葛葉毅、こっちはミリアム・ヴァリだ。』
大女:『初めまして、僕の名前はカティア、皆は僕の事「アバドン」って呼んでるけどね。』
葛葉、一瞬の内に戦闘態勢! ミリアムの盾になって、…こんな物で歯が立つ訳が無いと解っていながら、ゼロトレランスのタクティカルナイフを、身構える!
大女:『酷いなあ、どう見てもお客さんの態度じゃないよね、君達。…まあ、今放り出す訳にもいかないけどさ。』
大女は、少し憤慨したように眉間にしわを寄せて、両手の人差し指を、ツンツン押し付ける仕草?
葛葉:『今、何と言った? お前が、…アバドン?』
カティア:『僕の名前はカティア!…アバドンは外の皆が勝手にそう呼んでるだけだよ。』
それにしても、このおっとりした女が、あの大厄災の「アバドン」と関係があるとは、到底、信じられない。
葛葉:『お前は、どうして、こんな所にいるんだ?』
ここは、警戒厳重な武装施設の地下、だったはず。
しかも周りは、接近を阻む為の各種殺人設備で守られている。
カティア:『僕だって好きでいる訳じゃ無いけどね、ちょっと、僕の身体上の問題って奴かな、…皆と離れていた方が良いみたいなんだ、残念だけど。』
葛葉:『それは、お前を見るだけで感染する、「聖霊」の力の事か。』
カティア:『君は本当に失礼だな、…左目だけだよ、そう僕の左目を見ると、みんなお化けになっちゃう。 口から飛蝗とか噴き出したりしてね。 君も見たんでしょ、パリで。』
葛葉:『パリで起きた事を、知っているのか?』
カティア:『そう、僕は、抜き取られた目玉が見ているモノを、見る事が出来るんだ。 だから、外で君達が危険な目に遭っている事も分かったって訳。』




