102 葛葉 毅:「ボーイ・ミーツ・ガール その1」
大西洋上低空を太陽に向かって疾走する一機のロボット?宇宙船?
その機体は薄いピンク色の輝きに包まれており、どうやらその光のオブラートがアニメでよく見る「半透明バリア」になって、外界との抵抗や慣性の一切をキャンセルしているらしい、…
その「奇妙な飛行物体」の速度は時速20000kmを超えているにも関わらず、操縦席の内側は静粛平穏ソノモノで、一切の振動も騒音も届いていない様だった。
「プロメテウス」の操縦席で、
ツインテールの少女は、真っ赤に照れた顔でしげしげと、自分の事を膝の上に座らせる体躯の良い男の顔を見つめ続けていた。
葛葉:「どうした? 何か不安なのか?」
ミリアム:「アンタ、大丈夫なの? 怪我してんでしょ、」
葛葉は、先刻の大和武琉との戦闘で数本の肋骨を折られていた、恐らく、内臓の幾つかも無事ではない。
葛葉:「ああ、心配はいらない、」
葛葉はある程度負傷した状況下でも活動する為の各種訓練を受けてきてはいる、だからと言って全く苦痛を感じない訳では無いが、
鎮痛剤の類は不確定要因だらけの戦闘下に置いて、一瞬の判断と反応をにぶらせる可能性も有り、葛葉はギリギリまで薬の類に頼らないつもりだった、まだ、十分に耐えられる「許容範囲」だ。
ミリアム:「ねえ、毅、どうして私に、キスしたの?」
そして葛葉は、両腕の中に甘いミリアムの匂いを抱きながら、…行成り「限界突破」した、人生最大の難問に直面する。
お前を救いたかったから、と言う義務的な感情を、ミリアムが望んでいない事は確かだろう、
しかし、本当に「ミリアムの事が好きだ」と良心に悖る事なく言えるかと問われれば、どうしたって口籠ってしまう。 正直、自分でも判らないのだ。
葛葉:(俺は、ミリアムを利用しているだけなのだろうか?)(注、( )は心の声)
パリの空を覆い尽くす大和武琉の異形の姿を見て、それを一瞬の内に消滅させた星田翔五の聖霊の働きを見て、…ただの人間である自分の限界を納得してしまったのは、揺るぎようのない事実だ。
ミリアムの能力を手に入れなければ、自分だけの力では、何一つ目前の敵に対抗出来ない事は、明白だった。
でも、でも、…
葛葉は、自分の心の中で、何が建前で、何が本音だったのか、判らなくなり始めていた。 それでも、…
葛葉:「お前に、死んでもらいたくなかった。」
それは、偽りでは無い。
ミリアム:「そう、」
ツインテールの聖霊は、頭を男に凭れかけながら、傷を負った男の胸を、そっと撫ぜる、
ミリアム:「ちゃんと責任取らないと、…駄目なんだからね、」
彼女の言った台詞に、どういう意味が込められているのかは分からない、それでも仮令、この命を差し出す事になったとしても、全ての責任を取る覚悟は、既にある、
葛葉:「ああ、」




