都市防衛戦─カーテンコール─
すまない……こんなに遅くなってすまない……。
都市防衛イベントは今回で終わりです。
託された。一番の親友に。
ならば応えなければならない。
HPは満タンだが、精神疲労はかなり大きい。だからと言って敗けが許されるのだろうか?
──否だ。
剣を握る手に自然と力がこもる。左手を前に、右手を限界まで引き絞る。あとはただ、あらんかぎりを尽くして剣先に気を集め、鋭くしていく。
特別な技など必要ない。何故なら、リアちゃんから教わった古代武芸という流派は剛も柔も兼ね備えた千変万化の必殺剣。故に全てが名もなき奥義。名が付く技は、奥義の中でも特別な秘奥だ。
ここからは私の腕の見せ所。必殺たらしめる技量があるかどうかの証明になる。
指揮官らしき道化師は慌ててワイバーンを盾にしようと呼び寄せている。
「邪魔っ!」
右の剣で縦に両断する。返り血が頬を叩くが、気になんてしていられない。両断したワイバーンを足場にさらに加速する。
「くっ、ならば! サモン・ガーゴイル!」
道化師の言葉と共に空中に召喚陣が現れ、岩の質感を残す有翼の石像が行く手を阻む。
剣を振るう。大地に爪痕を残した一閃は、その石の体に刃を通し──止まった。
(堅い······!?)
なるほど、防御に突出した個体ならば、あり得ないことではない。あるいは、レベルが上であるならば。
ガクン、と高度が下がる。腕を捕まれたせいで行動が遅れる。背中から地面に叩きつけられた。だがダメージはほぼない。
「シッ!」
自由だったもう片方の腕で剣を振るい、石の体を斬り裂く。一の太刀でその堅さを理解した。ならば二の太刀で斬り裂けぬ理由はない。それでも抵抗を感じたのはひとえに想定以上の防御力を持っていたのか、はたまた私の実力不足か。
崩れて砂になっていく腕を振り払い、地面を砕く踏み込みで上空に躍り出る。昔上った東京タワーの展望台から見た景色がこれくらいの高さだったかな、なんて場違いなことを考えては落下する景色と共に過ぎ去っていく。
地面に叩き付けられた時と踏み込んだときの砂埃のおかげか、私の姿は見付かっていないらしい。
これは大きなチャンスだ。活かさない選択肢はない。
落下中に竜化を発動した。
腕がギチギチと音を立てて鱗に包まれて、同じく側頭部から角が生えていく。体が空を切る。剣に気を込めれば頼もしい輝きが返ってくる。
体を捻り回転させることで勢いをつける。
「上だと!?」
「もう遅いッ!」
私の剣は道化師の両腕を肩から切り落とした。
着地した私の背後に道化師が墜ちる。
「ギャァァァアア! イタイ、イタイ!? 早く私を助けろぉぉぉ!」
芋虫のように移動する道化師。止めを刺すべく追いかけるが、ワイバーンが取り囲むように襲いかかってくる。
一歩。右の二体を一息で両断する。
二歩。背後から迫ってきていた一体に左の剣を突き刺す。
三歩。頭上で弧を描いた剣先が前方の一体を両断する。
「来るなくるなクルナァァァァッ!」
「逃がすかぁぁああっ!」
肉薄し、振り下ろした剣閃はしかし、ワイバーンが道化師を掴み去ったことで掠めるに終わる。
悪運のいい奴め、なんて悪態をつきたくもなるが、ここで逃がすつもりはない。
何より。
「そこ、射程範囲なんだよね」
片方の剣を地面に突き立て、もう片方を両手で握る。
今あるありったけの気を、竜の生命力と混ぜて剣を注ぎ込んでいく。それは可視化された竜気となって刀身を揺らめく。
「この一閃は天を別つ竜の息吹。万象一切を消し飛ばす絶対の一撃と知れ」
刀身に揺らめく竜気が荒々しく歓喜する。さぁ、今こそお前を放つ時だ。
「さようなら」
全力で振り上げる。斬撃と共に飛び出した竜気が道化師とそれを掴んだワイバーンを消し飛ばし、雲を突き破って消えていった。
残ったのは一直線に雲が無くなった空だけだ。
腕の鱗が光の粒子になって空へと溶けていく。両方の剣を納刀して、振り返った。
「わっぷ」
飛び掛かってきた雪に押し倒される。
「ちょっ、こらっ。そんなに顔舐めなくたって……!」
押し返そうと舐められている箇所に手で遮った。
「アサヒ」
フウコの声が聞こえた。
「どうしたの?」
「そうだな。色々と聞きたいことはあるけど、まずはこれだな。ありがとう、アサヒが来てくれたから、勝てた」
「……うん、どういたしまして」
雪を上から退かして立ち上がる。
「アサヒ……なぁ、北は無事か?」
「大丈夫。街までは何も通してないよ」
シャドウもイザヤナギもいるから、いくら二人とも武器を失っているとはいえトッププレイヤーだからなんとかしているだろう。
「そうか……。これだけは教えてくれ。さっきの姿は、なんだ?」
フウコが言いたいのは、竜化のことだろうか。それならば、なんと答えようか。
「そう、だね……。神竜様からの贈り物、かな?」
「……っ!?」
その言葉にフウコが瞠目する。
「残りのモンスター一掃終わったよ。……あれ? どうしたの二人とも」
キノがやって来る。どうやら都市の防衛は終わったらしい。
「いくぞ、キノ」
「え、どこに!?」
「レベリングだ」
フウコがキノの首根っこを掴む。
「やっ、自分で歩くからっ! それじゃお姉ちゃんまた後で!」
キノはフウコに引き摺られたままどこかへ行ってしまった。
これで今回のイベントが終わりかと思うと感慨深くなる。
私はリアちゃんの眷属として相応しくあれただろうか。
「大丈夫だよ、アサヒ。あなたはよくやってくれた。だから卑下しないで、誇りを抱きなさい」
「っ!?」
ふわりと優しい声色に包まれた。
今のは間違いなく……。
「うん、私頑張る。だから見てて」
一迅の風が吹き抜けた。
次は掲示板回を予定してます。
できるだけ早く書けるよう善処します。




