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王の息子  作者: 夜雲
8/11

船での彼ら

「シュウ、お前も飯?」

 食堂では出された食事を口にめいっぱい詰め込むバルグードが出迎える。

 はっきり言って行儀のいい食べ方ではない。

 それでも不思議と下品な感覚は覚えなかった。

 母親に徹底的に仕込まれた礼儀作法などのおかげかと、ファーデルは小さく笑いを零した。

「はい。セナも?」

「ああ、俺はこれ食ったらすぐに食堂で芋の皮むき。お前は?」

「私は甲板で掃除。」

 バルグードはぶすっと顔をしかめた。それにファーデルは苦笑を漏らした。

「・・・・なんで俺はお前みたいな、力仕事は回されないんだ。」

「え~と・・・・セナはどうみても力仕事に不向きだから?」

 機嫌を直そうとしたファーデルにバルグードは、ぎろりと睨みをきかせた。

「ほ~お、ならお前は俺に力がないと?腕相撲で俺に一回も勝てた事の無いお前が?」

「え、いや、そう言うわけじゃ・・・・ちょっと、止め・・・・・いたたたたたた!」

「そんなことを言う奴には、仕置きだ!」

 食堂にいた船員は、その兄弟喧嘩を微笑ましげに眺めていた。

 前の港から船に乗り込んだ兄弟は船員の間でも有名だ。顔つきに似合わず、兄のとぼけた、弟の溌剌とした性格は船でも人気があった。

 特に弟はその明るい性格のおかげか人気があり、時折飴玉などの菓子類を貰っていた。

「つ~、セナひどいよ。」

「何がひどいだ。俺の心の傷の方がよっぽどひどい。」

「横暴だな。」

 呆れた様にそう呟き、ファーデルは頬を摩る。それにバルグードは気まずそうに頭を掻き、立ち上がった。

「あれ、もう行くの?」

「・・・・早くいかねえと、おっさんに叱られるしな。あと、これ。」

 バルグードはポケットから小さな袋を取り出した。そして、それをファーデルに投げる。

「何?」

 袋を受け止め、不思議そうにそれを眺めるファーデルに、バルグードはそっけなく答えた。

「さっき貰った飴玉。やる」

 食器を持ち、さっさと料理場の方に歩いていったバルグードを、ファーデルは苦笑交じりに見送る。

「今日も派手にやったな。」

「そうですね。」

 話し掛けてきた一人の船員にそう答え、袋の中を覗き込んだ。

 中には色とりどりの飴玉があり、宝石のようにきらきらと光ってさえいた。

「お一ついかがですか?」

 その中の一つを取り出し、船員の一人に差し出したが、受け取られる事は無かった。

「いや、俺は甘いもんは苦手でな。」

「・・・・それは残念。」

 ファーデルは持っていた飴玉を口に放り込んだ。優しい甘さが口の中に広がり、頬を緩ませた。

「あと、お礼を言っておきますね。」

「何にだ?」

「セナの仕事についてですよ。」

 それに船員は苦笑を漏らし、頬を掻いた。

「いや、別にお前らの仕事の分担を変えんのはいいんだがな。ほんとに良いのか?セナの奴はそーとー怒り狂ってたけどよ。」

「良いんです。セナは自分に疲労が溜まっている事に気付いてないんですから。今のうちに体を休ませておいたほうがいい。」

「お前さんは、いいのか?」

 ファーデルは首を振り、持っていた飴玉の袋をテーブルに置いた。

「いえ、私はこれでも頑丈なほうなので。それに疲れてきたらちゃんと休みますよ。」

「まあ、なら良いんだけどよ。・・・・・ずっと聞きたかったんだが、お前なんでこの船に乗ってんだ?」

 唐突なその問いに、ファーデルは何の反応も示さない。唯、船員もよく見る柔らかな微笑を浮かべている。

 それに、船員はほんの少し恐怖を覚える。その笑みは、どこか仮面を連想させるから。自分の中にある色々な物を、その少年は覆ってしまうのだろう。それは、嫌悪とか汚いものから、喜びとか綺麗なものまで。

(なんつーか、可哀想な奴だな。)

 この歳でそんな風に生きてきた少年を、哀れだと感じる。

(まあ、こんなご時世だからな。こんなガキもいんだろ。)

 さっさと今まで考えを捨て、船員は目の前の相手に目を向けた。

「う~ん、強いて言うなら、まあ決着をつけに?」

 予想していなかった返事に、船員は目を丸くし、食事の手を止めた。

 ファーデルはそれに気付いていないようで自分の台詞に違和感があるのか、口の中で何度も呟いている。

「決着、決着・・・・決着ですか。」

 ファーデルはそれに納得したのか、一度頷き、また船員に目を向けた。

 船員はそれを確認すると、恐る恐るといった雰囲気でファーデルに話し掛けた。

「シュウ、お前、決着ってのは些か物騒なんじゃねーのか?」

「そうですか?でも、その言葉が一番しっくり来るんですよね。」

 しみじみとした声音でそう呟いた。そして、さらに言葉を重ねた。

「私の母は、まあ俗にいう未婚の母で。この次のセルフィードに父親がいるそうで。」

「じゃあ?」

「ええ、会いに行くんです。」

 嬉しそうな、どこか無邪気にさえ見える笑みを浮かべる。けれど、何故か船員にはその笑みが。

「会って、そうですね。一発殴りでもしましょうか?」

 ひどく痛々しく目に映ってしょうがなかった。



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