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王の息子  作者: 夜雲
6/11

彼らの家族

湿った風が頬を撫でる。ただっぴろいだけの草原をそんな風が渡る。

「どうかしたの、イル?」

 呆れたようなその声に、イルは空を見上げることを止め、キアの方に目を向けた。

「いんや、特に何も。」

 へらへらとした笑みと共にそう答えたイルに、キアは大きく溜息を吐いた。

 イルという少女には、そんな笑みがひどく似合った。

 夕陽のような赤い髪に、神秘的な青碧の瞳。アーモンド形の目を細めると、まるで猫の様な印象を受ける。

「・・・・まあ、どうせファーデルたちのことでも考えてたんでしょう。」

 その言葉にイルは、またけらけら笑いながら、

「キアにはかなわないな~」

 と、呟く。

「あのね、ふざけてないで降りてきて。キャラバンの人にばれたら怒られるよ。」

 鮮やかな若草色の瞳に、柔らかく輝く金茶の髪。特別整っているわけではなかったが、柔和な顔立ちをしており、その色彩がその柔和さを強調していた。

 イルが今座っているのは、キャラバンのホロ車の上だ。キャラバンの人間はとっくに寝静まり、見張りの数名が起きているだけだった。

 イルたちのホロ車は寝床からも遠く、さして重要なものも乗せていないため見張りの目には届かない。

 山岳部近くにある草原は山からの風が絶えず流れる。

 その風がイルの髪を撫で、イルの顔はその髪のせいでよく見えない。

「・・・・まあ、いいじゃない。明日には目当ての町について、このキャラバンともお別れなんだから。」

 それにキアはまた大きく溜息を吐くと、自分もホロ車の上に登った。

「あれ、キアも上がるの?」

 不思議そうなイルに、

「まあね、私もよくよく考えればもうここともお別れだと思うと、なんか寂しくなっちゃって。」

と、イルの隣りに座った。

 そして、二人は黙り込み、揃って夜空を見上げた。

「ファーデルとバルグード、どうしてるかな?」

「さあて・・・・いつもどおり、漫才みたいな掛け合いでもしながら旅してるんじゃない?」

「でもさ、さすがにおかしくない?本当なら前の町に私たちより早く着いてるはずなのに。何かあったのかな?」

 それに、イルは目を細め、それはありえないとひとりごちる。

 共に在り続けるというのが、彼らとの誓いであり、そして約束でもあったからだ。

 どんなことがあろうとも、きっと生きて再会を。例え、泥水を啜ろうとも、例え、奴隷に身をおとそうとも。

「大丈夫さ。」

 イルの力強い断言に、キアは虚を突かれたような顔をしたが、直ぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「そうだね。きっと、大丈夫だよね。」

 二人はそのまましばらく、無言で夜空を見上げていた。




誰も手をのばす私たちに手をのばしてくれたのは、あなたたち。

だから、私たちはあなたたちの幸せを望みましょう。

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