双子の旅人
アルベール国周辺のとある砂漠、二つの小さな人影があった。
「・・・・もう後どれぐらいだろうね?」
まだ、声変わりしてない綺麗なアルトを響かせ、少年は振り返った。
夜の砂漠の月光に照らされ、少年の黒い髪が赤みを伴って輝く。
「あー・・・・あと少しで日の出だろ。」
その後ろで空を見上げた少年は、被っていたフードをずらし、水色に近い青の髪を外気に曝した。
「なら、そろそろ身を隠せる場所を探したほうがいいかもね。」
太陽が出ている間、マントで体を包みながら休息を取り、夜に行動する。それが砂漠で行動するには一番効率がいい。二人がそれを知ったのは、母親が寝物語に聞かされていたお伽噺の中での知識だった。
本当ならキャラバンに同行して砂漠を超えるはずだったが、時期が合わず、最低でも一ヶ月は待たなくならなくなった。そこで仕方が無く子供二人だけで砂漠を越えることになった。
夜の砂漠を歩くうちに夜目もきくようになっていた。
「ファーデル、そういうの考えんのもいいけどよ、ちゃんと食料の残量とか考えろよ?」
ファーデルと呼ばれた黒髪の少年は、濃い金の瞳を細め、顎に手を当て考え込むような動作をした。
「う~ん、でも砂漠を越えるまでには持つと思うんだけど?バルグードも、確認したよね?」
どちらかというと男らしい、整った造詣を持つ少年は顔立ちには似合わない、ゆったりとした話し方と静かな雰囲気を持っていた。
バルグードと呼ばれた少年は、真昼の月の様な白銀の瞳を細め、溜息を吐く。
「まったくお前は・・・・まあ、らしいっちゃらしいけどよ。」
そう言って肩を竦める様は、弟を見守る兄のものだった。
少年は繊細な、どこか人形を思わせる顔立ちには似合わない、明るく溌剌とした笑みを浮かべる。
正反対な印象を持つ二人は、何故かどこか似ているような感覚を持つ。それは、鏡を見ているさまを思わせた。
そんな二人が似ていると思えるのは、双子であるという事実がなせるわざなのか。
「ふふふ、そんな難しい顔してないで早く行こう。イルたち、先に着いてるかもしれないよ。子供が大勢で行動するのは危ないからって、分かれて行こうって言い出したのはバルなんだから。」
「そうだけどよ、つーかバルって言うな。俺もファルって呼ぶぞ。」
「いいよ。というか、どうして愛称嫌いなんだい?」
「・・・・・ガキくせぇ。」
その呟きに、ファーデルは納得がいく。バルグードはその容姿のせいで、子供扱いをよくされ、そういった性癖の人間に攫われかけた事があるせいか、出来るだけ大人びた事をするようにしている。
「分かったよ。バルグード。これでいい?」
「ああ、いいさ。」
頷き合い、また黙って二人は歩き始めた。
その身に持っているのは古惚けたマントと食料、少しの路銀。腰にはそれぞれ長剣がさげられている。
それに加え、ファーデルは子供が抱えられるくらいの小さなハープを、バルグードはリュートをそれぞれ背負っていた。
そして、二人の胸には揃いの銀色のホイッスルが提げられていた。
楽器は彼らにとって、母や他の兄弟たちと過ごした思い出の象徴でもあり、路銀を稼ぐための道具でもあった。
彼らの母は、音楽に愛されていた。
楽器を奏でれば、至高の旋律を。歌声は、天使の歌声。舞えば、どんな人間も見惚れる。
だから、彼らは音楽を愛した。それは、多くの意味で必然でもあった。
二人にとって、音楽を愛することは母親を愛することと同義でも合ったからだ。
「ねえ、バルグード。」
「何だよ。」
囁くような小さな声でも、バルグードの耳には確かに届いた。
「・・・・強くなろう。」
その言葉に、バルグードは不覚にも黙り込んだ。
「強くなろう。もう二度と、何も亡くさないために。弱いばかりに、泣くのはもういやだから。強くなって、僕らは生き抜かなくてはいけないから。だから、強くなろう。」
それは、母親が死んでから二人を縛り付ける固定観念のような、恐ろしいまでに強い、願望。
「ああ・・・・」
微かにそう言って頷くと。二人はまた黙り込んでしまった。
二人は進む。砂漠の中を、月光に照らされて。
彼らは、進む。
自分に決着つけるため。
彼らに仲間はいますが、本当は二人ぽっちなのかもしれません。