ハサミ少女 第二章 ハサミ少女と羽崎鋭(はさきえい)の話【ハサミ少女の過去編】
私は、羽崎鋭
年齢は中学1年生。
性別は女。
趣味は切り絵、ハサミ芸、料理。
家族は。
もう居ない兄が一人と母と父。
私は、ハサミが好きだ。
ハサミで、折り紙を切ることが好きだ。
それをハサミ芸というらしい。
死んだ兄が云っていた。
兄は、活発で元気な男だった。
大学に入ってから女にはだらしなかったが
勉強もスポーツもできた。
だからモテた。
しかも、理系でメガネときたものだ。
最強だ。
そんな兄だがある日、女のアパートに教授に
云われた印刷物を持っていった時のことだ。
その女とは、なんでもないのに
女の男が勝手に勘違いして
兄を、近場にあったハサミで刺したのだ。
女の止めるのも聞かずに3度ほど刺したとい
う。
兄は刺されたまま、何食わぬ顔で商店街を抜
けて
家まで帰ってきた。
その間、知人や近所の人とすれ違ったが
そんな素振りも見せなかったという。
しかし、帰宅すると緊張の糸が切れたのか
私の出迎えもそこそこに、玄関に倒れた。
死因は傷口からの大量出血だったという。
女の男はそのあとすぐ捕まった。
女は、どっちにか泣き崩れて立てなかった。
私は、憎んだ。
女も女の男もだ。
そして
兄を殺したということもそうだが
私の、好きなハサミを1度でも血でまみれさ
せた事を
憎んだ。
当時、私はTVで男を見るたびクッションを画
面に投げつけた。
それからだ。
私がハサミを使って人を傷つけるようになっ
たのは。
私は、ハサミ少女になる前は死刑を約束され
た程の
犯罪者だった。
ネコミミのついた、黒いパーカーを着てお気
に入りの
”鋭”の文字が彫られたハサミを持って街に
出て
兄に似ている若者を傷つけた。
後ろ姿でも、横顔でも、正面でも、髪の色で
も
なんでもよかった。
ただ、好きなハサミが血で塗れることがよか
った。
でも、そんなことも長くは続かず
私は、死刑を宣告され。
ハサミ少女となった。
それからというもの、銀座・原宿・秋葉原・
新宿など
夜遅くまで、灯りが付いている駅周辺に座り
話かけてきた
やつを怖がらせて、噂を広げた。
『馬鹿でかいハサミを持った少女が、夜出没
するらしい。名前はハサミ少女って云うらし
いぜ。』
時々、兄に似ているやつを見るとグッとくる
けれど
大分我慢できるようになった。
このハサミの中にほぼ全ての羽崎鋭の頃の記
憶は封印した。
羽崎鋭は、一世を風靡した。
新聞の見出しはこうだ。
【羽崎兄弟ハサミの呪いにかかる!?】
呪いとまで云われてしまった。
ただ、私は純粋にハサミが好きだっただけだ
。
勿論、今も好きだ。
けれど私はいつの時もハサミに守られている
。
だって、ハサミは兄なのだから。
兄が大好きだった私が好きなもの、
それイコールハサミなのだから。