表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

サブタイトルはとくになし


中澤沙耶の世界へようこそ。


普通の女子高生にみえる彼女をとりまくのは、ちょっと不思議な世界。





僕には目の離せない同級生がいる。


右側の列の斜め前

教壇から数えて三番目の席に座る女子


中澤沙耶。


好きとか、そういう恋愛感情ではない。


例えば校庭で見つけた蟻の行列。

列からふいに外れて、せわしなく触覚を動かしながら冒険に踏み出す一匹。


ついつい、そいつを目で追ってしまうような感じだ。



☆ACT 1 ☆ きっかけ



七分咲きの桜が、風に枝を揺らしていた入学式。


僕は一緒に進学した同じ中学の奴らと、入部案内のチラシをネタに談笑していた。

クラスを見渡せば、似たようなグループがあちこちで形成されていた。

僕のように周りを窺う、新しい同級生たちと視線が合う。

愛想笑いを見せる女子とは対照的な、真っ直ぐな視線に一瞬重なる。


それが、中澤沙耶だった。



「え〜、担任の及川です」



黒枠の細いフォルムがよく似合う、女子が騒ぎそうな感じだ。

案の定、女子たちのひそひそとした声があちこちから聞こえてくる。



「可愛い妻と生後半年の息子がいる、生物担当の35歳。とりあえず…」



総勢三十四名が座る教室を見渡してから、及川先生は続けた。



「このあとは入学式な。保護者はもう体育館に座ってるから。…で。」



名簿らしきファイルを開き、再びみんなの視線を見渡した。

それから一日の予定と、明日から一週間の予定を丁寧に説明してくれた。


及川先生の印象は、悪くはなかった。

相談しやすい先輩とか、頼りになるような先輩とか、とにかく気さくな感じだ。


クラスの連中もあまり僕と変わらない普通な感じ。


フラグ的なイベントも特に起こらず、高校生活が始まろうとしていた。




入学式に向かう渡り廊下は整然と並んだ僕達、新入生で詰まっていた。


普通科は三クラスあり、僕はそのB組。

情報処理科と福祉科はひとクラスずつに分けられていて、前方に並んでいる。


体育館の扉が開き、吹奏楽の奏でる曲が聞こえてくる。



中澤沙耶の横顔が、僕の視線を掴まえた。



少しずつ進む列から、何かを見上げていた。


なんだろう?


彼女が見上げている辺りに、視線を動かした。


何もない。


あえていうなら

入学式日和な柔らかな青い空。

渡り廊下から見えるグランド。

椿や桜や、名前を知らない庭木。



彼女はまだ見上げていた。


僕にとっては必死に勉強をして入った高校でも、彼女には滑り止めだったのかもしれない。


そんな憂いを見つけようと、注意深く横顔を見つめた。

しかし表情から気持ちが解るはずもなく、無駄な推理となった。



何を見てるんだろう?



彼女は何度か、何かを見上げていた。

そのたびに僕も釣られて、ちらちらと見上げてみる。


何もない。



まるで行列から抜けようとする蟻のようだ。


僕はこの日、彼女の名前を覚えて終わった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ