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「ワハハッ、オレは生き延びたぞ!」

 蛭川は言葉を残すと、目隠しの奥の瞳で強烈な光を感じ取った。

 十秒……いや、もっと短い時間だっただろうか。強い刺激から開放され目を開けてみると、見渡す限り何もない、真っ白な空間に立っていた。

――ここは何処だ?

 蛭川は上下左右をスローモーションのような動きで眺めた。

 なにも――無い。

 色ばかりか音も匂いもない世界。

 白い目隠しはいつのまにかとれている。

 ゆっくりと首に手をやった。ロープもなければ、痛みもない。

 声を発してみようと努めたが、音にはならなかった。

 口笛、手拍子、足踏みも試してみたが、静寂を破ることはできなかった。

 なにも無い空間に独りきり――そう思った矢先、視線の先で人影が浮かび上がった。白いドレス姿。恐らくは外国人だと思われる長い黒髪の女性が現れ近寄ってきた。

――誰だ?

 女は蛭川の前ですッと立ち止まった。

 浅黒い肌に手入れの行き届いた細い濃い眉。大きめの黒い瞳。艶のある厚めの唇。

 贅肉のない細く長い腕を蛭川の顔に伸ばす。

 両手で頬を優しく包まれると、情熱的な視線を投げかけられた。

 わずかに唇が開き、なにかを呟いたが耳には届かなかった。

 女は静かに目を閉じ、蛭川の顔を引き寄せた。

 蛭川も目を閉じる。

 女の熱い息を首筋に感じた刹那、激痛が全身に走り、音のないはずの空間に蛭川の絶叫が響いた。

 女は蛭川の首に喰らいついていた。

 蛭川の口から大量の血液が溢れると、カラダは硬直し、全身を痙攣させた。

 女は噛み続けながら、頭部を引きちぎろうと凄まじい力で前後左右に揺さぶる。

 激痛が蛭川の意識を寸断するまでそれほど時間はかからなかったが、強い光が数秒瞬き、意識を呼び戻された。

 蛭川が目を開けると女の姿はなかった。

 無意識に噛まれた首に手を伸ばそうとしたが動かせなかった。

 気がつくといつの間にか白い椅子に座らされ後ろ手に縛られていた。足も椅子に固定され、身動きできない状態だった。

 椅子から逃れようとあがいていると、音もなく二人の少年が蛭川の前に立った。

 見覚えのある――いや、忘れるはずのない顔だった。

 蛭川が手に掛けた二人の少年。

 まるで表情を失くしたかのような顔で、蛭川を見ていた。

――逆だな。

 蛭川は苦笑した。

 何故なら――蛭川は彼等を殺害する際、テロリストの犯行声明にみられる映像を真似て、彼等を椅子に座らせた後絞殺した映像を撮っていたのだ。

 蛭川が彼等を凝視すると、二人はそれぞれ蛭川の脇に歩み寄った。

 なにをする気だ、と蛭川が不安の色をみせると、二人同時に片手を蛭川の頭部に、もう一方の手を首に伸ばした。

 蛭川がごくりと唾を呑むと、二人は首に伸ばした手の爪を立てた。

 再び悪夢のような激痛が走った。二人の爪は鋭利な刃物のように鋭く、皮膚の奥深くまで切り裂いた。更に指をくい込ませると皮膚をつかみ、顔面に向かって皮を剥ぎだした。

 絶叫する蛭川の顔面は、人体模型のように筋繊維剥き出しになっていく。子供たちは無表情のまま、容赦なく頭皮まで一気に剥いだ。

 蛭川は朦朧とする意識の中、再び白いドレスの女が目の前に現れたことに気づいた。

 子供たちは女の元に剥いだ皮を持っていった。

 女はそれを受け取ると、おもむろに被り、空気を切り裂くような声で吠えた。

 蛭川はその光景を見届けると意識を失ったが、また強い光の瞬きによって意識を呼び戻された。

 だが、今度は白い空間ではなく、黒い空間だった。

 しかも狭苦しい場所だった。

 肌に布のようなものが触れている。

 ここは何処だ、と手を伸ばそうとしたとき、自分の身に異変が起きていることに気づいた。

 手を動かそうにも感覚がまるでない。足も同様に感覚がない。それどころか首から下の部位全ての感覚がない。しかも麻痺というよりは、頭部以外の他の部位は消失している気がした。

 悪夢のような時間はまだ続くのか、と蛭川が考えていると、何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきた。更に上方から細い光が差し込んできた。

――あの声はあいつだ!

 声の主に気がついて蛭川の気は急いた。とにかくここから抜け出さなければ。

 そう思うと、光の差し込む方向へ動いていた。頭部だけでも移動が可能であった。

 暗がりを抜け出ると蛭川は驚いた。目の前に巨人が立っていた。

 見上げると、声の主堅田所長の巨大な顔があった。

 

 

 

  

 


 


 

 

 

 

 

 

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