宅配物
東京拘置所長堅田の元にその荷持が届いたのは、堅田がピットリヴァース博物館を訪れてからおよそ九ヶ月後のことだった。
実物のツァンツァを目にして陶酔した堅田は、帰国後、ネットサーフィンに没頭し、ついに入手経路に辿り着いた。
心躍らせた堅田は、すぐにツァンツァを秘かに取り扱うアメリカ在住のニコラスという男と連絡を取り、購入を希望した。
ただ、購入するにあたり一抹の不安があった。それは、土産物用に製作されたレプリカでないことと、現存するものであるかどうか、ということだった。
本物でないと意味がないが、新たに製作されるとなれば犯罪に加担してしまうのではないか、という恐れがあった。
なにしろ人間の頭部が必要なのだ。しかも、頭蓋骨ではなく、張りのある皮膚が製作には欠かせないのだ。
だが、堅田の懸念はニコラスの、「心配ない」の一言で払拭された。いや、信じるほかなかったのかもしれない。
結果、ニコラスの言葉が堅田を後押しする形となり、堅田は購入を決意した。
――重いな。
堅田が荷物を手にしたときの率直な感想だった。
50cm四方の木箱。
堅田が慎重に箱を開けると、口の細い、茶色い壷のような陶器が収められていた。注文の際、丁寧な取り扱いを要求したことを思い出す。
陶器を取り出し調べると、「割れ」の小さな文字が刻まれていた。
堅田が金槌で慎重に割ると、中から外側をアルミホイルで覆った球体の嵌め込み式のプラスティック容器が出てきた。
――えらく慎重だな。
堅田が口元に笑みを浮かべながら球体を二つに分けると、透明なビニールに梱包されたツァンツァが現れた。
堅田は興奮気味に手を震わせながらビニールを広げた。
――おおッ!!
堅田は唸り声をあげた。ピットリヴァース博物館を訪れてからというもの、咽喉から手が出るほど欲しかった物が今手元に――。
艶のある黒い髪。
劣化の少ない皮膚。
今にも開きそうな瞼。
――美しい……。
水をすくうように掌に乗せ、目の高さまで持ち上げる。
堅田の脳裏に死後間もない母の姿が浮かび上がった。記憶の中で一番美しい母の顔。
――お母さん。
堅田の頬をすッと一筋の涙が流れた。
その夜、堅田は枕元にツァンツァを大事に置き、それほど得られなかった母の温もりを感じとるように深い眠りについた。