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略奪

 衝突事故によって移動手段を失った堀鳥達は、自衛隊が警備にあたる庄内橋へと徒歩で向かった。堀鳥は車の直撃は避けたものの、打撲や目尻を切るなどの軽傷を負っていた。

「避難指示はまだ出ていないですね」

 朝方より幾分表情の引き締まったスティーブがケータイを見ながら言う。

「天災と違って対応が難しいンだろうな。このケースでは屋外こそ危険だと言えなくもないし――」

 堀鳥はそう言いながら渋滞する車の列を横目に見た。人々は行政の判断とは違い自主的に避難しているようだ。

 周囲を警戒しながら堤防道路へ上がり、庄内橋へと足を進める。親を亡くしたばかりの子供達を励ましながら急がせるのは骨が折れた。

 突如、銃声が数発響いた。また化け物が現れたのだろうか。南北に架かる橋の南側で警備にあたる自衛隊員が南に伸びる道路に向かって銃器を構えていた。

 堀鳥達が西側から警戒しながら橋に近づくと一人の自衛隊員の目に留まった。救助を求めようとする堀鳥達に、迷彩服に身を包んだいかにも屈強そうな体躯の自衛隊員はいきなり小銃の銃口を向けた。

「西警察署の堀鳥です。この子達の避難をお願いします」

 掘鳥は両手を挙げ、助けを求めた。

「その傷はどうした? 奴等にやられたのかッ!」

 自衛隊員は銃を構えたまま横柄な口調で質した。堀鳥の怪我を疑っているようだ。

「追突事故によるものです。この子達の避難をッ!」

 自衛隊員はわずかに様子を窺うと銃口を逸らし、銃身を二度三度と振って通り抜けろと指示した。

 掘鳥はスティーブ、奏、子供達を先に行かせ、最後に橋に辿り着いた。

「第三十五普通科連隊の森本だ。緑地公園に避難車両が出てるはずだ」

 銃口を向けた自衛隊員はそれだけ言うと、橋へと続く南からの道に意識を向けた。救助よりも化け物の駆除を第一としているようだ。掘鳥は礼を言い、険しい表情を浮かべた隊員達の脇をすり抜け、スティーブに緑地公園だ! と叫び、橋を北に向かった。

 緑地公園――庄内緑地グリーンプラザは庄内川の北側に広がる約44haの広大な公園である。敷地には陸上競技場、やテニスコート、バラ園などの施設を有し、市民の憩いの場として利用されており、庄内橋からは徒歩十分程度の所にに位置している。

「かなり増えてきてますね」

 先を急ぐ掘鳥達の後方から立て続けに銃声が響いていた。化け物が疫病のようにネズミ算式に増加することは想像に難くない。堀鳥は急ごう! とだけ言って振り返りもせずに緑地公園を目指した。

 坂井戸の交差点を過ぎ、しばらく歩くと左手に入り口広場が見えてきた。避難してきたと思われる人々を制服警官が入り口奥の駐車場へと誘導している。

「市バスで避難させるンですね」

 行政による指示だろう。駐車場では回送と表示された市バスが縦に三台並んでいた。行き先は不明だが特別に設置された避難所へ向かうのだろう。避難者の多くは高齢者だった。やはり制服警官の指示に従い整然とバスに乗り込んでいた。

「奏ちゃん、子供達を頼めるかな?」

 堀鳥がそう言ったとき、突然女性の悲鳴が聞こえた。

 悲鳴は入り口広場南の公衆トイレの方からだった。堀鳥が目を向けると、制服警官がふらふらと頭を押さえながら歩いていた。目を凝らすと頭を押さえる手の指の隙間から血が流れていた。

越川こしかわッ!! どうしたァ!」

 同じ警察署の警官だろうか。さっきまで避難者を誘導していた警官が顔をこわばらせて銃を構えている。

「違う、違うッ!」

 越川と呼ばれた警官は大袈裟なくらいに両手を振り、化け物による襲撃を否定した。

「トイレに入ったらいきなり後頭部をガツンだ。」

 越川は聞かれてはまずい事があるのか、もうひとりの警官になにかを耳打ちした。

「どうしたンスかねェ」

 スティーブも気になったようだ。堀鳥は子供達をバスへ連れて行くよう指示して二人の警官のもとに駆け寄った。

「なにかあったンですか」

 西警察署の掘鳥です、と警察手帳を提示して訊いた。

 越川は傷口を押さえながら気まずそうな表情を浮かべて口を開いた。

「実は……恥ずかしい話なンですが、暴行を受けた際、何者かに銃を奪われてしまいました」

 

 

 



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