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アクシデント

 外に出ると陽は高くなっていた。堀鳥達の前を車が横切っていく。あれほど静かだった街がにわかに動き出していた。

「避難指示に切り替えられたンですかね」

 スティーブは情報を取得しようとケータイを操作する。

「避難指示ってどういうことですか?」

 奏が割って入った。先刻まで監禁状態にあっては、この緊急事態について何ひとつ知らないのかもしれない。

「とりあえず車に急ごう。話はそれからだ」

 堀鳥は安全確保を最優先に考えた。化け物がいつどこから現れるかわからない。

 パトカーは角の家を右に折れたところに放置したままだ。神経をすり減らす仕事が続き、化け物に初めて遭遇したのが随分前のことに思えた。

 角を曲がるとパトカーが見えた。シルバーのワゴン車が通り過ぎるのを確認して車道を横断しようとすると、突然激しい衝突音が響いた。

「なにをやってるンだ!」

 スティーブが怒声をあげた。

 ハンドル操作を誤ったのか、ワゴン車はパトカーのほぼ正面から突っ込んでいた。

「スティーブ、この子を頼む! それから救急車の手配も――」

 堀鳥は突然の事故に怯える美緒をスティーブに預け、事故車へと急いだ。

 かなりの破損が見られるパトカーを横目に、ワゴン車の乗員の救出にあたる。

「大丈夫ですか?」

 運転手側のドアを開けると、脹らんだエアバッグとシートに挟まれるようにして自分と同じ三十前後の男が血まみれになっていた。

 脈を取ろうと首筋に手を伸ばしかけると、目を疑うような光景が飛び込んできた。

 男の咽喉元あたりの肉が齧りとられたように欠損し、血液が湧き出るように溢れ白いシャツを赤く染めている。

――まさか。

 掘鳥は一旦身を引き、銃に手を掛けた。車内から子供の泣き声が聞こえる。

 車内にアレがいるのか?

 掘鳥はワゴン車の後方を回り込み、助手席のドアを力強く引き、銃を構えた。

 シートには母親と思われる女性が、やはりエアバッグに押し潰されるようにぐったりとしている姿があった。

 向けられた銃に怯える様子がみられないほどに虚ろであった。ただ、出血は見られなかった。

 救出は後回しにして、次にスライドドアを引いた。瓜二つの顔立ちの男の子達が同じ泣き声をあげていた。

 堀鳥は子供達を意識の外に追いやり、注意深く車内を見回した。父親であろう男の首の傷跡から、車内に化け物が潜んでいるのでは? と推察したが、その姿はどこにもなかった。

 事故によるものなのか――。

 疑念は晴れないが、車内に乗り込み、救出活動にあたった。

 シートベルトを解除し、双子の男の子のひとりを車外へ連れ出した。

 今のところ爆発炎上の危険はなさそうだが、念のために事故現場から遠ざける。

 二人目の救出にワゴン車へ戻ろうとすると、スティーブが子供を連れ出したところだった。

 ワゴン車の後方で見守る奏と美緒を手招きで呼び寄せ、スティーブの後を追わせる。

「要請しましたが、この管轄の救急車は全て出動中だそうです」

 すれ違いざまにスティーブが言った。被害は徐々に拡がりをみせているようだ。

「庄内橋に配置されている自衛隊に力を借りよう」

 堀鳥はそう言ってワゴン車に走った。

 ワゴン車では母親が自らの足で降りようとしていた。うわ言のように石が飛んできて、と繰り返していた。

 事故原因よりもまずは救出だ、と掘鳥は肩を差し出す。足元がおぼつかないのか肩にずっしりと体重がのしかかる。

「夫は無事ですか?」

 安否を気遣う妻に対して、「すぐに助け出しますから」と、避難に支障をきたさないよう生死については一切触れずに答えた。

 このまま橋まで連れて行くか――。

 堀鳥が思案すると、スティーブ達の後方の土手を下りてくる白いキャップを被ったランニングウェア姿の女が目に入った。

 脱水症状でも起こしているようなふらふらとした足取りでゆっくりとスティーブ達との距離を詰めていた。黒いタイツは太ももあたりから裂け、膝まで白い肌をさらしている。

「スティーブ! 後ろだ、土手の上だ!」

 掘鳥の危険を知らせる声にスティーブは即座に反応した。振り返り銃を構えると瞬時に発砲した。

 弾丸は女の腹部に命中した。ピンクのウェアがまたたく間に血液で滲んでいく。

 通常なら致命傷ともいえる傷であったが、女は衝撃でバランスこそ崩したが、歩みは止まらなかった。

「落ち着け! 落ち着いて頭部を狙え!」

 堀鳥の檄に応えるようにスティーブは女を引きつけ、二発続けて撃った。

 弾丸は正確に女の頭部を撃ち抜き、女は血飛沫をあげて前方へ倒れ土手を転がった。

 よほど緊張していたのだろう。スティーブは肩で大きく息をしていた。

「よくやったゾ」

 堀鳥が労いの言葉をかけると、スティーブが振り返るよりも先に、奏が堀鳥に向けて指を差していた。

 その表情は恐怖に慄きながらも、何かを訴えるような目をしていた。

 

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