恋愛とガールズトーク
『オマエコロス』
「いきなり何さー」
名波が電話に出ると、全く穏やかじゃない言葉が耳に届いた。相手はさっきまでメールしていた隆である。
『何が変だ。別に俺が顔文字使ったっていいじゃねぇか』
「だって隆って変にクールなところあるから、顔文字って違和感があって」
『変ってゆーな。メールの文章が硬すぎるかなって思ったから入れてみたんだよ。まぁ今後は一生入れるつもりないけどな』
「ごめんごめん。悪気はなかったんだよ?」
『その純粋無垢な考えが人を苦しめることを忘れるな?』
「はいはい。わかりましたよ」
『ってわけだから。また細かいこと決まったら連絡するけど、それでいいか?』
「うん。大丈夫」
『そうか。じゃあおやすみ』
「うん。おやすみー」
電話を切ってケータイをテーブルの上に置いて、目の前にいた双子に詫びを入れる名波。
「ごめんごめん。まさか電話来ると思ってなかったから」
「大丈夫だよ、おねえちゃん。隆さんでしょ?」
「うん」
「ラブラブなんだもんね~」
「もうそんなにラブラブしてないってばー」
からかうように笑っている桜と遥。ちょうど三人でガールズトークを楽しんでいるときに隆からメールが来たのである。
桜と遥の二人には一番に報告をしている。家族で知っているのは、桜と遥、そして母親の三人である。もしかしたら家政婦の何人かは電話しているところを聞いているのかもしれないが、優しい人達ばかりなので知っていて知らないふりをしているのかもしれない。
そして一人だけ知らされていない人物がいた。それは名波信者である父親だ。
溺愛を通り越して宗教化しているのではないかと疑いたくなるほど名波を愛している父親に、『彼氏ができました』などと言ったら、きっと大変なことになると思い、名波は父親の耳にだけは隆の存在を入れないようにと気を付けていた。
それでも父親としては、娘のことは全部知りたいと思い、家政婦や秘書などに情報を聞いて回っていたりするのだが、仕事とプライベートは別のようで、みんな名波の味方となって口を固く閉ざして知らないふりをしてくれていた。
「で、お姉ちゃんと隆さんってどうやって付き合ったの?」
恋愛事に興味津々な年齢である桜が聞いてくる。桜ばかりが質問していて遥は聞き手に回っているのだが、双子特有の謎シンクロを発揮しているので、遥の言いたいことは話すのが得意な桜が全て聞いてくれているので、遥は特に嫌な思いはしていないかった。どうしても自分で聞きたいことはちゃんと自分の口から聞いているので問題なかった。
「どうやってだったかなぁ・・・。私が落ち込んでたときに、拓馬と隆が来てくれて、拓馬に背中を押される感じで隆に告白したって感じかな」
「じゃあお姉ちゃんから告白したってこと?」
「そーゆーことになるのかな」
「お姉ちゃんやるぅー」
「もうからかわないでよー!」
互いの肩をペシペシと叩き合う名波と桜。
それを見ていた遥が口を開く。
「お姉ちゃんと隆さんって、もうキスとかしたの?」
「うわっ! 遥ってば大胆!」
「だって気になるんだもん」
「遥に聞かれるとすごい照れるなー」
「で、したの?」
「えーっと・・・まだしてません」
「「そうなのー!?」」
同時に驚く桜と遥。あまり驚きの感情を表に出さない遥が驚いているので、とんでもない驚きだったのでしょう。
「そんなに驚くこと!?」
「そりゃあ・・・ねぇ?」
「うん。意外だった」
「私もー」
「やっぱりまだしてないのって遅いのかなぁ?」
「どうなんだろ? でもマンガとかだとキスから始まる恋もあるみたいだよ」
「隆は『俺たちは俺たちのペースで行こう』って言ってくれてるんだ」
「お姉ちゃんはキスしたいの? したくないの?」
また遥が口を開いた。今日の遥は桜が驚くほど饒舌です。
「でもいざ二人きりになると変に意識しちゃって緊張しちゃうんだよねー」
「じゃあその緊張を誤魔化すために抱きついちゃえばいいのに」
「桜まで! 二人ともお姉ちゃんをなんだと思ってるのさ!」
「まぁ冗談だけどさ。お姉ちゃんはキスしたいと思ってるの?」
「うーん・・・そんなに考えてなかったけど、どちらかと言えば・・・してみたいかも」
「じゃあもうガッっと行くしかないよ!」
「そうだよ、お姉ちゃん!」
「そ、そうなのかなぁ?」
「頑張れ、お姉ちゃん!」
「ファイト、お姉ちゃん!」
「よ、よし! 二人に言われてやる気出てきた! 今度頑張ってみるよ!」
マンガの知識だけで得た恋愛経験を参考にした桜と遥の応援によって勇気づけられた名波であった。
ちなみに双子は『恋に悩む主人公を励ます親友ってこんな感じだよね』という感じで名波の背中を押しています。
果たしてどうなることやら。
黒木家三姉妹は今日も平和である。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
双子が積極的ですね。
ガールズトークは素晴らしい!
次回もお楽しみに!