破天荒とメール
「で? お前は結局どうしたいわけ?」
『特に進展を求めてるわけじゃないけどさ、仲良くなりたい程度には思ってるかな』
「あんまり気をもたせるようなことすんなよ?」
『わかってるって』
『こいつホントにわかってるのか?』
心の中で隆は呟いた。
拓馬から電話が来て、今度出かける時に一花と芳恵が付いてくるという連絡を受けた。
多分芳恵は名波のことも見たことが無いので、それも兼ねているのかもしれないと隆は考える。
『それにしても年下と一緒に遊ぶとは気まずくないのだろうか?』
そう思った隆は拓馬に聞いてみた。
『あの姉ちゃんにプライドとか世間体とか恥とかがあるはずないだろ』
「そりゃそうだわな」
隆の知っている芳恵は昔からぶっ飛んだ脳みその持ち主で、いつもヘラヘラと笑っているイメージが強かった。
公園に置いてあった草刈機を当時小学五年生だった芳恵が暴走させて、自転車一台と芝刈り機一機を大破させた時も、『でへっ☆』っと笑っただけで謝りもせず逃げたり、一緒にゲームをしていた時も、負けて怒ってコントローラーを破壊するという暴挙に出た日もあった。
またある時は『フリスビーしよっ』とか言ったにもかかわらず、フリスビーが無いのに気づいた芳恵は、何を思ったのか家の中から大きめの平皿を持ってきて、それをフリスビーにして遊ぶという快挙も成し遂げたりした。アレはたしか中学1年の時だっただろうか。キャッチに失敗した拓馬が皿を割ってしまい、芳恵が全責任を拓馬に押し付けていたのはいい思い出だ。
そして人生の暗黒期である中学2年生の時はいろいろあったのだが、それは芳恵の封印されし記憶の1ページなので、紐解くのは遠慮していただきたい。
未だに当時の芳恵を知っている近所のおばちゃんなんかは、芳恵を見るたびに『あの芳恵ちゃんがこんなに立派になっちゃって』と口を揃えて言う。今もあんまり変わってませんよ。
そんなこんなで芳恵は近所ではちょっとした有名人であり、超がつくほどの破天荒娘であった。
「それにしても芳恵は友達いないのか?」
『隆が言える立場じゃないだろ』
「そうだけどさ」
『いないんじゃね? 大学入ってから友達の話聞いたことないし』
「さみしいやつだな」
『だから隆が』
「わかってるよっ!」
『そういえば姉ちゃん、今年は就活なんだってさ。だから忙しくなる前に遊んでおきたいのかもな』
「まぁそーゆーことなら仕方ないわな」
『最後の頼みだと思って大目に見てやってくださいな』
「分かったよ。じゃあまた芳恵のバイトのシフトがわかったら連絡くれや」
『はいよー』
電話を切った隆は、読みかけだった小説を手に取ると再度読み始めた。
今読んでいるのは、最近発売した愛読している作者の最新作である。
基本的になんでも読んでいるが、この作者には固定ジャンルというものが全くない。ある時は推理ものであったり、またある時は料理ものであったり、またまたある時は魔法少女ものであったりと、多種多様で同じ人間が書いているのかと疑いたくなるような作者である。
全国的に有名な作者ではあるのだが、人気シリーズのほうが全く更新されず、こうやって一冊で完結する作品ばかりが出版されている。
隆は全国に存在しているファンと同じように、作者の最新作を待ち遠しくしているのだが、この出版の仕方やあとがきを見ると、どうにも人気シリーズのほうがスランプに陥ってしまっていて、それのリハビリを兼ねているのではないかと考えていた。それにしてもリハビリで面白いってどういうことだよ。
今読んでいる最新作はネットを駆使して、今の日本を覆そうと国家反逆を企てている青年の話である。読み始めると止まれない謎の疾走感がたまらない作品である。
「おっと忘れるところだった」
隣に置いてあったケータイを開いてメールを打つ。
隆から名波に連絡すると言っておいて忘れるところだったのである。
『件名:お誘い 本文:今度拓馬と拓馬の姉ちゃんと委員長と一緒に出かけようって話してたんだけど、一緒に行くよな?』
隆は自分のメールを送信したあとにいつも思う。
『結構俺様な感じで、ちょっと印象悪いか?』と。
そう考えているとすぐに返信が来た。
『件名:誘われた 本文:やっと拓馬のお姉さんに会える!ヤッホーイ!ヽ(*´∀`)ノ』
名波のメールを呼んだ隆は『そうか顔文字か!』と心の中で呟いて返信をする。
『件名:誘ったのは拓馬 本文:じゃあまた決まったら連絡するな(`・∀・´)』
『件名:? 本文:わかった。ホントに隆だよね?』
『件名:?? 本文:どういう意味だ?』
『件名:Re:?? 本文:だって隆が顔文字使うなんて変だもん』
隆はケータイを枕に投げつけて、小説にしおりを挟んだ。
そしてメールの文句は電話で言うことにした。
相沢隆は今日も平和である。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
閑話みたいな感じで読んでぐださい。
次回もお楽しみに!