不満足な拓馬とランキング
2月末のテストが終わると、授業もピークを越して簡単な内容になっていく。
今行われている国語も『読書の時間』という名の自由時間と化している。
例にもれずに、普通に読書をしていた隆の席に拓馬と名波と一花が集まってきた。。
そんなゆるーい時間の中、前の土曜日の一件以来、妙に仲良くなっている拓馬と一花を、隆と名波がボケーっと見ていた。
「木下君がもう百円挑戦していれば取れてたのよ」
「だからあの時は札しか残ってなかったんだって。で、両替しようか迷ってたら、後ろに並んでた人が取っちゃったんだって」
「だから私はあれほど両替をしておきなさいって言ったのよ」
「いつ言ったんだよ」
二人は隆と名波に土曜日のことを聞かれて答えていたはずなのだが、いつの間にか隆と名波を置き去りにして、思い出話へと路線変更してしまったのだ。
UFOキャッチャーで景品があと少しで取れなかった時の話をしていました。
「それにあの時は後ろに並んでたんだから仕方ないだろ。格ゲーだってワンコインで交代が基本って言うだろ?」
「知らないわよ。私格ゲーやらないもの」
「俺だって風の噂で聞いただけで実際にやったことねーよ」
もうよくわからないやりとりになってきました。
そんな着地地点のわからない会話を見ていた隆が口を開く。
「あのさ。お前らすごい仲良くなったな」
「どこが」「でしょ?」
全く正反対の回答をする拓馬と一花。
拓馬としては、軽い口喧嘩レベルの話なのだが、一花からしてみれば『なかなか懐いてくれなかった犬がかまってくれている』という心境に近いものを感じている。もう拓馬と何かしていられるだけで満足なのである。
「もう木下君と一緒にいられるだけで私満足」
「俺は不満足だ」
「満足の対義語は不満だぞ」
「どっちでもいいの! とにかく俺はもっと黒タイツに囲まれた生活がしたいの!」
「十分してるじゃないの」
そう言って、名波の方を見る一花。拓馬も隆も気づいたらしく、二人の足へと自然と視線を落とす。
拓馬と隆の目の前には、拓馬のお墨付きの『黒タイツ+美脚』の持ち主が二人もいるのだ。
拓馬黒タイツランキングのぶっち切り一位に君臨し続けている名波。そしてその下の方で二位をキープしている一花。
上位二人が居てもまだ足りないというのか! 拓馬よ!
「そういえば、最近、俺の中での黒タイツランキングに変動がありました」
「マジで!?」
その言葉に、三人の中で一番驚いていたのは隆でした。ここ半年間でまったく変動していなかったランキングがついに変動と言うことは、ついに名波の一位が崩されたのです。それはもう大変なことです。地殻変動レベルです。
少しワクワクを抑えられない隆が聞く。
「で、誰が一位なんだ?」
「残念なことに市原さんです」
「ぃよっしゃぁあ!!」
盛大なガッツポーズを繰り出す一花。豪快です。
さすがの隆も興奮してきた。
「じゃ、じゃあ名波が二位か?」
「いや、名波は殿堂入りした」
「「「殿堂入り?」」」
三人が揃って聞き返した。
「だって名波の黒タイツはもう揺るがない一位だもん。それでずっと一位に君臨し続けてたらなんか他の黒タイツの人に申し訳ないじゃん。もしかしたら俺の黒タイツランキングに載るために履いてきてるかもしれないだろ?」
「いや、それはねーよ」
「まぁ百歩譲ってそれはないとしよう」
「有り得ないけどな」
「でももしもそーゆーのを考えてる人がいたら、名波の暫定一位はちょっと不公平だと思ったんだ。だから殿堂入りしました!」
キッパリと言い切った拓馬を目の前にして、全く意味がわからないという顔をしている名波。
人にはそれぞれ心の中にランキングがあるのです。隆もランキングを作っており、『イジメがいのあるランキング』を作っています。ちなみに一位はぶっち切りの一位で名波です。大人気ですね。
「えー。何そのランキング」
「みんな心の中に秘めているランキングさ」
「へー。じゃあ隆もそのランキングってなんかあるの?」
「ない」
「どうせ聞いても答えてくれないんでしょ? って答えるの早いよ!」
「もしもあったとしても、俺は教えないからな」
「ケチー。委員長はなんかあるの?」
「私? 最近だと木下君の好きな仕草ランキングね」
「すごいランキング作ってるんだね・・・」
一花のとんでもランキングに驚愕の色隠せなかった。
「私も何かランキング作ったほうがいいのかなぁ?」
「そんな無理矢理作るもんでもねぇけどな。気がついたら出来てたみたいな感じだな」
「うーん・・・じゃあ好きな食べ物ランキングとか?」
「もう好きにしろよ」
キーンコーンカーンコーン。
「はい。今日はここまででーす。では読書感想文を終業式までに提出してくださいねー」
「「うそっ!?」」
「最初に言ってただろ。読書感想文書いてねーって」
「だから隆ずっと読んでたのか」
「まぁ読みかけだったし」
「市原は?」
「私、こう見えて読書家なのよ。だから感想文の一つや二つ、ちょちょいのちょいよ」
「名波は?」
「読んでない・・・」
「同志よっ!!」
そう言って固い握手を交わした拓馬と名波であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
皆さんのランキングはなにランキングですか?
次回もお楽しみに!