体育の時間
「くらえ! バーニングショット!」
「甘いぜ! グレートマウンテン!」
「ちょっ! すごい山って!」
今は体育の時間。男子と女子が体育館を半分に仕切って授業中です。
男子は体育の先生が風邪を引いてしまったために、自習という名の自由時間となっています。自由時間とはいえども、やる内容は決まっているので『バドミントン』か『卓球』を選択して、時間を潰さなければなりません。
そんな中、拓馬と隆はバドミントンを選択して、ネット越しに打ち合っていました。
普通にやるのでは面白くないという拓馬の意見で、技名をつけながら打つという縛りバドミントンに興じています。
「いぇーい。これで5対3な」
「お前の技名のセンスが無さすぎて相手にならねぇし」
互いに未経験だが実力だけで言えば隆のほうが上だった。しかし拓馬のネーミングセンスに笑わされっぱなしでまさかの五角。拓馬のほうは笑いもせずに平然と打ち返してくるので、この縛りは隆に圧倒的に不利だった。
「人のセンスにケチつけるなよな」
「つっこまずにはいられねえんだよ。なんだよグレートマウンテンって」
「ほら、風林火山みたいな感じでかっこよくね?」
「意味不明だし。ほら続けるぞ」
「はいよー。ワンダフルサーブ!」
拓馬のアンダーサーブでラリーが始まった。
一方その頃、女子はバスケの試合中でした。今は名波率いるAチームと、有紀が率いるBチームの試合です。
名波が華麗(笑)なドリブルを披露してジャンプシュート。特にバスケ経験があるわけでもなく運動神経が格段いいわけでもないので、ゴールまで届かずに見事にゴール下を守っていた敵にナイスパス。
「くそっ! 惜しい!」
それでも一生懸命悔しがる名波に、自由時間すらサボって女子の試合を見ていた男子は、思わずニンマリしています。
その中で地味に活躍していたのが有紀でした。小学校の頃にミニバスをしていたので、部活をやっている人間には劣るけれども、体育の授業レベルならかなりの活躍。
相手チームに名波姫がいるけれども、今輝かずしてどこで輝くのさ!と言わんばかりの性能の違いを発揮してます。
そして華麗にレイアップシュート。見事ゴール。
有紀が男子のほうをチラリと見ると、拓馬の打ったシャトルを爆笑しながらもなんとか返す隆の姿。
思わず昨日の楽しかった時間を思い出して顔がニヤける。
何を隠そう、有紀は隆に好意を持ってしまったのです。昨日の良心全開の隆の顔が、有紀の知っている隆の顔とあまりに違って優しかったので、ついギャップにやられてしまったのです。
ギャップって怖いですね。
「有紀ちゃん? どうしたのぼーっとして・・・大丈夫?」
「え、あ、名波姫・・・じゃなくて名波ちゃん!」
「姫?」
「いや、なんでもない! 大丈夫!」
そう返事をして、試合に戻る有紀。姫と呼ばれたことに変な感じを覚えながらも、真面目な名波は試合に集中した。
そして爆笑の渦に巻き込まれた二人の男子。
ついに拓馬が隆の笑いにつられるように笑い始めた。
「なんなんだよ! さ、さっきから変な名前ばっかりつけやがって。ヒィヒィ」
「だから真剣も真剣、超真剣だって何度も、ヒヒヒッ」
「ヒィヒィ、疲れてきたな。そろそろやめね?」
「だな。腹筋が割れそう」
「もう割れてるくせに」
「何故知っているんだ!」
バカなことを言いながら、男子と女子の境目にあるネットのところまで歩いていき、二人で並んで座る。
ちなみに隆は体育の授業とはいえども、授業中は至って真面目なのでドSを現さない。そして拓馬は、体育の授業だと女子はジャージを履いているので全く興味関心が無い。
したがって、他の動物園の檻にしがみついて女子のほうを見ている男子達とは違い、女子側に背を向けて男子側を向いて座っている。
「いやー、今日の一番は隆の『デリシャスワンダフル』かな」
「俺はお前が言った『麦茶アタック』が一番ツボった」
互いの健闘を称え合っていると、後ろから近づく人物がいた。
もちろん有紀である。え?名波じゃないよ?
「相沢くん」
「え?」
後ろから声をかけられた隆は思わず振り返る。そこには試合を終えた有紀が立っていた。
「竹中か。何かあった?」
「えーっとね、見ててくれた?」
「ん? 何を?」
モジモジしながら言う有紀に隆は意味がわからないという風に聞いた。
「さっきバスケの試合で大活躍だったんだけど、みててくれたかと思って・・・」
「あーごめん。見てないや。バドミントンしてた」
「あれ? そ、そっか。普通そうだよねー」
明らかに落ち込む有紀。さっきまでとても輝いていたのに、輝いただけで終わってしまった。
まるで天気が悪いときにやってきた流星群のような気分だった。
そんな残念な気分を引きずったままズルズルと他のBチームの仲間の元へと戻ってきた。
『昨日は優しかったと思ったんだけどなぁ・・・』
頭の中でそう呟いてみると、隆への熱が少し冷めた気がした。
そんなことを考えながら、試合中のAチームとCチームの試合を見る。そこで一生懸命に頑張る名波の姿を見て気がついた。
いくらミスしても笑顔を振りまく名波。味方が点数を決めると自分のことのように喜んでくれる名波。そして可愛い顔。少し小柄だけど美人ともとれるような容姿。どこをとっても及第点がなかった。
『やっぱり私には名波姫しかいない! 名波姫が大好きだー! 結婚してくれー!』
所詮男は男だ。名波相手には勝負にすらならなかったのだ。
名波への想いと気持ちを再確認することができた体育の時間だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
体育の授業の自由時間って微妙に微妙ですよね
次回もお楽しみに!