初デートのはずが・・・
卒業式明けの土曜日。
今日は名波と付き合って初めてのデートである。
しかしデートとはいえども、特に予定を決めずにとりあえず待ち合わせをして、街中をぶらぶらしようというものである。
なので隆は、いつも通りに待ち合わせ場所に来て、名波の到着を待っていた。
そして待ち合わせ時間を過ぎること約5分。
「お待たせー」
「俺はもう何も言わない」
「どーゆー意味?」
「言っても治らないからもう言わない」
「でも待っててくれたんでしょ?」
「・・・まぁな」
「ふふふ。じゃあ行こっか」
待ち合わせ時間に遅れたのも気にせずに、二人の初デートが始まった。
とりあえず最初に行くところだけは決めておいたので、最初の目的地である大通公園へと向かう。
地下道が発達してきている札幌駅周辺は、地上を歩かなくても大通公園まで行けるようになっているので地下を並んで歩いていく。
「ここ通るの久しぶりだー」
「マジで? 俺は通るの初めてかも」
「ホント!? どんだけこっち来てないのさ」
「だって大通公園なんて滅多に行かないだろ。公園の向こうに用事があるってこともないし」
「まぁ地元民だからねー。意外とテレビ塔とかも登ったことないしね」
「地元民だからな。なんであんなに時計台に集まるのかがわからん」
「あっ!」
立ち止まって急に大きい声を出す名波。
「なんだよ。ビックリするだろが」
「ごめんごめん。時計台行かない?」
「まぁいいけど・・・何しに行くんだ?」
「特に無いけど・・・一応これってデートだし、市内観光ってことで」
「そういえばデートだったな。忘れてた」
「それは酷いんじゃないですか?」
腕を組んで少し不機嫌そうな表情になる名波。
そんな名波を見て隆は少し困る。名波がどう思っているのかわからないが、隆からしてみれば友達同士で街中を歩いている感覚なのだ。まだデートとしての意識が薄いのかもしれない。
そう思った隆は、名波のことを彼女だとして強く意識してみることにした。
「名波は彼女名波は彼女・・・」
「ちょっと・・・どうしたの?」
「おっと心の声が。いや、名波のことを彼女だと強く意識意識してみたらデートっぽくなるかなーって思ってな」
「まだ自覚ないの?」
隆が歩き出すと名波も並んで歩き出す。
「自覚ってゆーかなんてゆーか・・・そりゃ名波と付き合ってるのは事実だし、俺も望んで恋人同士になったわけだからいいんだよ。でも急に友達だった名波を彼女として扱えって言われてもちょっとなぁ・・・」
「うーん・・・。私は結構楽しみだったんだけどなぁ」
「そりゃ俺だって楽しみだったさ。彼女とデートだもん。楽しみじゃないはずがないさ」
「じゃあ手、繋いでみる?」
そう言って手を差し出してくる名波。ここで手を握らないのは、大変失礼である。なので隆はおずおずと差し出された手を握った。指を絡めて繋ぐ恋人つなぎではなく、普通に繋いでいるだけ。
「なんか緊張するな」
「エヘヘ。手つないだだけだけど、私も緊張してきた」
「・・・手、冷たいな」
「・・・隆はあったかいね」
お互いの手のぬくもりを感じながら札幌の地下道を歩いた。
その後地下道を出て、しばらく歩くと時計台が見えてきた。なんのへんてつもない、木造建築物である時計台。一体何が観光客をここまで惹きつけるのであろうか?
ほとんど素通りする形で時計台の前を通り過ぎた。
「なんか普通だったね」
「そんなもんだろ。地元民だし」
「地元民だもんね」
そう言って二人で笑った。
その時、前を向いた二人の視界に、よく知った後ろ姿が見えた。
そして同時に相手の顔を見た。
「今の見たか?」
「うん。あれって拓馬だよね?」
「だろうな。身長とか姿勢とか歩き方とかが拓馬そのものだったもんな」
そう。拓馬が二人の前を歩いていたのである。
特に予定も目的も無く歩いていた二人に、目的と予定が出来た瞬間であった。
「よし。尾行するか」
「絶対言うと思った。でも今はデート中ですよ?」
「あーそっか」
「でもちょっと気になるから追いかけたいです!」
「じゃあ・・・ちょっとだけな。ちょっとだけだぞ?」
隆のセリフは完全に『押すなよ? 絶対押すなよ?』のノリであった。
「わかってるって。ちょっとだけでしょ。ちょっとだけね」
名波のセリフは完全に『わかってるって。押すわけないだろ』のノリであった。
「よし。じゃあバレないように少し離れて追いかけるか」
「了解しましたっ」
そう言って隆に向かって敬礼のポーズをとる名波。
かくして、隆と名波のデートは『拓馬を少しだけ尾行する』というものに切り替わってしまったのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
さてはてどうなることやら。
次回もお楽しみに!