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被害・大

「ただいまー」


拓馬と隆が政治経済の教科書の問題を出し合っていると、拓馬の姉の芳恵(よしえ)が帰ってきた。

部屋の中で耳を澄ませていると、よっこらしょ、とおっさん臭い声が聞こえて、テレビの音が聞こえてきた。


「あれ? 姉ちゃんバイトだったはずだけどなぁ。ちょっと聞いてくるわ」


そう隆に言って部屋を出てリビングへと向かう拓馬。


「姉ちゃんおかえり。バイトは?」

「シフト間違えて覚えてて、行ったら休みって言われたから帰ってきた」

「アホじゃん」

「うるさいわい。ところで誰か来てんの?」

「隆来てる」

「隆か! 久しぶりだわー。ちょっと挨拶しちゃお」


ソファから立ち上がった芳恵は、拓馬の横を通り過ぎて拓馬の部屋の中にいる隆の元へと向かった。

開きっぱなしになっているドアに寄りかかって片手を前に出して元気に挨拶をする。


「おう!」

「久しぶりだな。バイトは?」

「休みだった」

「アホじゃん」

「隆まで拓馬と同じこと言うなよなー」


ムスーっと膨れる芳恵。隆とは拓馬と同じく昔からの付き合いなのでとてもフランクな関係である。


「休みなら彼氏と遊んでくれば良かったじゃねぇか」

「隆・・・ケンカ売ってるのか?」

「また別れたのかよ」

「またってゆーな」

「どうせいつもと同じようなこと言われて振られたんだろ?」

「違いますー。今回は私から振ったんですー」

「姉ちゃん。嘘は良くないぞ」


芳恵の後ろから肩をポンと叩く拓馬。その手を素早く振り払った芳恵は、拓馬の二の腕に逆水平チョップを繰り出した。


「いってぇ・・・」

「隆の前では強い女でいたいんだ!」

「もう俺の中ではぐうたら女の部門で殿堂入りしてるから諦めろ」

「隆までそんなこと言って・・・」


その場にガックリと膝を付く芳恵。

こんな彼氏に振られてばかりの芳恵だが、実は隆のことが好きなのである。しかしそこまで本気というわけではなく、『ちょっと付き合ってみてもいいかなぁ』なんて思う程度である。なので少しテンションが上がってしまったり、よく見られようと思っているらしいが、そんな気持ちが隆に伝わるはずもなく、ただ軽く遊ばれておしまいである。だがそれでも良かった。それでも満足だった。


「昔『大きくなったら芳恵と付き合ってあげる』って言ってた可愛い隆はどこへ行っちゃったの?」

「そんな隆くんは元からいねぇよ」

「隆の嘘つき!」

「もう勉強の邪魔だから姉ちゃんは向こうで大人しくしてろよなー」


うなだれたまま座り込んでいた芳恵を跨いで部屋の中に入った拓馬は、こたつの中へと潜る。


「また勉強してるの? 物好きねー」

「次は学年末だから範囲広くて大変なんだよ」

「どうせ毎日暇なんだから勉強なんて明日でもいいじゃんかよー。今日は私と遊ぼうぜ!」

「断る」

「うわっ。冷たっ」

「俺は暇でも隆は暇じゃないんだよ。明日だって名波と勉強するみたいだし」


芳恵の動きがピタリと止まった。


「名波?」

「隆の彼女だよ。ちょっと前から付き合い始めたんだ」

「本当なの? 隆?」

「本当だよ。そんなに落ち込むなよ」


明らかにテンションが下がってしまった芳恵。

そして隆に向かってバレバレな嘘泣きを繰り出す。


「グスングスン。お姉さん寂しいわ。グスングスン」

「芳恵ってこんなにめんどくさいやつだったか?」

「隆のことが好きだったんだから仕方ないさ」

「ちょっと! なんでそれ言うの!?」

「えっ! マジかよ! 適当に言っただけなのに」


隆は立ち上がって、思わず墓穴を掘ってしまった芳恵に近づいた。

そして一言。


「ドンマイ」

「チューしよっ! チューしてくれたら諦めるからっ!」

「うわっ! しつこいっ! 俺はしつこい女は嫌いだっ!」

「私は大好きだからっ!」

「意味分かんねぇよ!」


逆に開き直って首にぶら下がるように腕を回してきた芳恵を振りほどこうと隆が暴れていると、隣の部屋のドアが静かに開いた。そして中から俊哉が出てくる。


「みんなうるさい」

「す、すまん」

「俊哉ー! 隆に彼女が出来たんだってー!」


俊哉の都合など全く気にせずに、芳恵が腕を回したまま言う。


「彼女? ・・・・・・もしかして黒木さん?」

「まぁな」


隆の答えを聞いた瞬間、俊哉はその場に崩れ落ちた。

隆は芳恵の腕を振りほどいて崩れ落ちた俊哉の元へ向かう。

そしてトドメを差す。


「そんなわけで名波は俺の物になった」

「隆と黒木さんじゃ釣り合わないって・・・」

「ふっ。残念だったな」


それだけ言うと、拓馬の部屋の中に戻っていく隆。

拓馬は廊下で呆然としている姉と弟の姿を確認してから部屋のドアを閉めた。


「・・・ねぇ俊哉?」

「・・・なんだよ」

「・・・もしかして黒木さんって子好きだったの?」

「・・・好きってゆーよりも崇めたかった」

「・・・どゆこと?」

「・・・すげー可愛いんだよ」

「そっか・・・よしっ! 俊哉! ラーメン食べに行こう!」

「・・・姉ちゃんの奢り?」

「もちろん!」

「・・・よっしゃ! 気合入れて食べるぞー!」

「失恋パーティーだー!」

「「おーっ!」」


そんなやりとりが聞こえたあと、ドタドタと外へ出ていった音が聞こえた。

そして部屋の中で拓馬と隆が顔を見合わせる。


「芳恵も俊哉も相変わらずだな」

「身内として恥ずかしいよ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。


隆と名波が付き合ったことによって、二人の被害者がでました。

ドンマイ。


次回もお楽しみに!

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