二人っきり
隆と名波は教科書を開いて勉強会を始めていた。
「だからここはこうじゃないって言ってるだろ。この数字をこうやって・・・」
「おぉ! さすが隆先生!」
「誤魔化そうったってだめだからな。ここと同じミスは前のテストでも間違えてたんだろ?」
「えへへ・・・やっぱりバレてましたか」
「お前なぁ・・・」
いつもと同じ雰囲気で勉強会をしていた。
しかし隆はそれが少し不安でもあった。
『恋人同士ってどうやって二人きりの時間を過ごしてるんだ?』
とりあえず部屋に入るなり、玄関での一件の照れ隠しもかねて勉強を始めたものの、いつもと変わらない名波の様子にドギマギしていた。
『いやいや! 別にいつも通りでもいいじゃないか。何を意識することがあるんだ。俺たちは俺たちのペースで付き合っていけばいいんだ』
そう頭では考えているものの、名波の横顔を見るたびに意識してしまい、もうよくわからなくなっていた。
「ん? 何?」
隆の視線に気づいた名波が、ノートから顔を上げて隆を見る。
頭の中で考えていたことがバレないように、視線を教科書に落としてごまかそうとする。
「いや、ちゃんとわかってんのかと思ってさ」
「・・・ふーん」
「なんだよ」
「隆、緊張してるの?」
「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ」
「私は緊張してるよ」
「お前何言って・・・」
思わずドキリとしてしまう隆。
「だって問題解けなかったら隆怒るんだもん」
「ってなんだよ。そっちかよ・・・」
「じゃあ隆はどっちだったの?」
名波の質問に驚いて顔を見ると、口元に笑みを浮かべていたが、目が笑っていなかった。怒っている訳ではなく、緊張しているのがバレバレな無理矢理な笑顔だった。
「お前だって緊張してるんじゃねぇか」
「だ、だから緊張してるって言ったじゃん!」
「大きい声出すなよ。・・・わかった。俺だって緊張してるよ。今まで友達としか思ってなかった女と付き合ってるんだ。どう接したらいいのかよくわかんねぇんだよ」
ポリポリと頭をかきながら照れくさそうに隆が言う。
「・・・だよねぇ。なんか拓馬に上手く言いくるめられたような気がするけど、私たち付き合ってるんだもんね。なんか不思議」
「じゃあアレか? ホントは俺のことなんて、その・・・好きじゃなかったってことか?」
恋愛どころか、友達付き合いすら素人の隆が、いきなり確信をついた。
空気読めよ。
「そんなわけないじゃん。隆のことは、その・・・好きだよ。って恥ずかし!」
隆の心臓が銃で撃ち抜かれました。
完全に動かなくなってしまった隆に名波が声をかける。
「・・・隆?」
「あっ。ごめん。ボーッとしてた。それならよかった」
「何安心してるのさ。なんかあった?」
「いや、名波が俺のことどう思ってるのかなぁって思ってさ」
「さりげなくすごいこと聞くよね」
「えっ、いや、恋人同士ってどんな会話したらいいのかわからねぇんだよ!」
「いつも通りでいいじゃん」
「・・・なんでお前はそんなに冷静なんだ?」
「全然冷静じゃないよ。超ドキドキしてるもん。触ってみる?」
そう言ってからだを隆の方へと向ける名波。
「いや、俺にはまだハードルが高すぎる」
「私もOKされたらどうしようかと思った。でも私が隆の事好きなのはホントだよ。だって一緒にいて楽しいもん」
今度は余計な力が入っていない自然な笑顔で言う名波。
隆はドキッとした。そしてその瞬間、気づいた。
『あー。俺この笑顔が好きなのかも』
今までぼんやりと名波のことが好きだなーと思ってたぐらいだったのが、今の自分に向けられた笑顔のおかげでハッキリとした。
「やっぱり俺も名波が好きだわ」
「やっぱりって何さー」
「でも、ほら、俺って、自分で言うのもアレだけど、は、恥ずかしがり屋だから、多分今まで通りになるとは思うけど、それでもいいか?」
今感じていたこと、思っていたことを名波に告げた。
その言葉を受け取った名波は、また笑顔で答えた。
「もちろん。急に変わられても私が困るし。隆は今まで通りの隆でお願いします」
顔を見合わせて微笑み合う二人。
そして隆は一つの決心をした。
「よし。じゃあ今度のテストで名波が赤点取らなかったらデートするか」
「私赤点なんてとったことないよ?」
「バカ。そこは察せよ」
つまり隆が言いたいのは『テストが終わったらデートしよう』と言うことです。
それに気づいた名波は笑い出した。
「あはははは!」
「なんで笑うんだよ」
「だって今まで通りって言ってたのに、その直後にデートって」
「なんだよ。じゃあこの話は無かったことに・・・」
「あー! 行く! 行きます! 私も隆とデートしたいなぁ!」
「最初から素直にそういえばいいんだよ」
「隆だって素直じゃないくせにー」
「うるさい」
「わー先生に怒られたー」
怒られたフリをして、また勉強に取り掛かる名波。
そしてそんな名波を見て隆が一言。
「また同じとこ間違えてる」
「げっ、マジで?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
イチャラブ回?でした。
次回は拓馬回です。
次回もお楽しみに!