隠れた才能
なんとか隆の魔の手から女子高生を救出した拓馬は、隆に説教していた。
「隆。お前なぁ。俺が見てないからって勝手にあんなことさせたら駄目だろ」
「あいつが悪いんだから仕方ねぇだろ」
「仕方ないかもしれないけど、アレはやりすぎだ。謝ってきなさい」
「なんだよ・・・わけわかんねー・・・す・み・ま・せ・ん・で・し・たっ!」
悪びれた様子を微塵も感じさせない隆の超攻撃的な謝罪。もはやアメリカ軍にも勝るとも劣らないほどの攻撃力です。
拓馬が後ろから追いついて、そんな隆の頭を叩いた。
「ちゃんと謝れよ!」
「だから俺じゃなくてこいつが先にやってきたんだって! やられたらやり返すのが世界の法則だろ!」
「どこの世界の法則だよ! そんな世界の法則なんて乱れてしまえ!」
「うるさーい!!!!」
ギャーギャーと歩道の真ん中で騒いでいる拓馬と隆に、名波の一喝がきまった。
「いい加減にしなよ。あの子だって困ってんじゃん」
改めて名波に言われてシュンとなる拓馬と隆。名波さんを怒らせると怖いんですよー。
オホンと咳払いをして女子高生のほうへとからだをむける名波。
「さてと。ねぇ君」
「な、何?」
魔王とその魔王に対抗している人間を同時にてなずけた名波に、少し萎縮した様子で応える女子高生。
「今日の朝、ここの歩道橋でお婆さんを助けてたのって君?」
「そうだけど・・・」
「ほら見ろ! やっぱり合ってたじゃん!」
「黙らっしゃい!」
「はい・・・」
「で、朝に黒タイツ履いてなかったって拓馬が言ってるんだけど、ホント?」
「タイツ? あぁ。いつも履いてるんだけど、今日は一時間目が体育で着替えるのが面倒だから脱いで行ったんだ。今日の朝はいつもより暖かかったし、タイツなしでもなんとかなりそうだったから」
その言葉を聞いていた拓馬は驚いていた。
『これって・・・恋じゃない?』
そして隆も驚いていた。
『これって・・・拓馬の変態度が進化している?』
説明しよう。
隆が朝に見たこの女子高生は、普段から黒タイツを履いているが、今日に限って履いていなかったのだ。そして歩道橋でお婆さんを助けた。そこを黒タイツソムリエの拓馬が通りかかり、女子高生が今日だけ履いていなかった黒タイツに反応して、恋と勘違いしてしまったのだ。拓馬の黒タイツセンサーは、着実に進化してきているのであった。
しかしこの女子高生も黒タイツの似合う素晴らしい足を持っているのは間違いなかった。
「ってことは・・・」
「お前の黒タイツに対する執念が見せた幻ってところか?」
「じゃあこれは恋じゃないと?」
「黒タイツに反応しただけだな。つまりいつも通りだ」
「なんだよそれー!」
がっくりとうなだれる拓馬。隆がドンマイと言って拓馬の背中を叩いた。
置いてけぼりだった女子高生が名波に声をかける。
「あのー・・・どういうこと?」
「あー・・・人違いだったみたい」
「人違い?」
「そう人違い。だからゴメンね?」
「つまりやられ損だったってこと?」
「あれは希ちゃんを泣かしたから悪いのよ。妹を目の前で泣かされたら怒るのも当然よ」
きっと自分の目の前で愛しの桜と遥が泣かされていたら、名波も大暴れするんでしょうね。
「妹? あの子ってあの人の妹なの?」
「そうだよ。隆は怒ると怖いんだから今のうちに逃げたほうがいいよ?」
「う、うん。そうする。いろいろとゴメンね」
「こっちこそゴメンね。じゃあねー」
「バイバーイ。またねー」
女子二人が手を振って別れたのを見ていた拓馬は、さらにうなだれた。
「はぁ・・・俺の恋路はどうなってしまうんだ・・・」
「なんだ。それならもう一人いるじゃねぇか」
「えっ? 誰っ?」
隆が指さした方向には、反対側の歩道を歩いている一花の姿があった。教室に置いて行かれた一花は、拓馬の気配と拓馬レーダーを使ってここまでたどり着いたのだ。勘ってすごいですね。
こちらの姿にはまだ気づいていないらしく、身をかがめてやり過ごそうとする拓馬。
「いや、市原はちょっと・・・」
「ほら、むこうもまんざらじゃないみたいだし」
「俺が市原のこと苦手だって知ってるんだろ?」
「もちろん」
「隆ってホント性格悪いよな」
「おーい委員長ー! 拓馬フラれたぞー!」
その言葉を聞いた一花が素早く反応し、歩道橋をダッシュで渡ろうとしていた。
拓馬はすぐに立ち上がり、別れの言葉を告げるとダッシュで逃げ帰ろうと走っていった。
「めでたしめでたし」
「拓馬可哀想じゃない?」
「いいんだよ。あれでもなんやかんやで楽しんでるんだから」
「そうなの? まぁ隆が言うなら間違いないんだろうけどさ」
「それよりこのあとどうする? 微妙な時間だけど」
「うーん・・・どうせ帰ってもすることないしなー」
「いや、何もないなら勉強しろよ」
「へ?」
「だから月末のテスト勉強しろよ」
「・・・忘れてた!」
「忘れてたってお前なぁ・・・」
「エヘヘ。今回は隆先生はおやすみ?」
「・・・わかったよ。でも今回は軽めだぞ」
「ありがとうございます。じゃあ行こっか」
前を歩いていこうとする名波。その名波に問いかける。
「行くってどこに?」
「決まってるじゃん。隆んち」
「名波さんうち来るの!?」
「お母さんとお父さんに報告だね」
隆の後ろに隠れて変態女子高生をやり過ごそうとしていた希と望が、隆の両側から飛び出して名波の元へと走っていく。
そして双子に案内されるままに隆の家のほうへと歩いていく名波。
もはや取り返しのつかない状況になってしまったことを悔やんだが、正直なところ名波と二人っきりになれることが少し嬉しい隆なのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜びます。
拓馬ドンマイ。
ちょっとわかりづらいかもしれませんが、あのキャラが濃い女子高生はモブでした。
今後のストーリーにはあまり関わってきません。
次回もお楽しみに!