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女性幹部の作戦~筒抜けの作戦~

今日最後の授業が終わった時、言われていたとおりに黒木の元へと向かうために腰を上げる隆。

拓馬は我慢していたトイレへと教室を飛び出していったので今は居ない。

隆にとって今日はヒドイ一日だった。

名波が喉が乾いたと言えば自販機まで行かされ、消しゴム忘れたと言えば自分の消しゴムを貸したりと、女王さながらの傲慢っぷりに隆はストレスの塊と化していた。

それに加えて、今はもう落ち着いてきている筋肉痛が拍車をかけるように隆を攻撃していた。

いつか絶対に仕返ししてやる、と内心ではドSの炎を燃やし、必死にへーこらしていた。

そして残すところ放課後イベントだけになったので、なんとか意識を平常に保って乗り越えようとしていた。

そして黒木のほうに向おうと視線を動かしたとき、拓馬の机の下に一枚の紙が滑り込んできたのが見えた。拓馬が落とした紙かと思い拾い上げて見ると、拓馬の汚い字とは全然違う女の子らしい文字で書かれていた。


「ん? 誰のだ?」


拓馬の前の席を見ると誰も居なかった。

帰るの早すぎだろ、と思いながらその前の席を見ると、そいつもいなかった。

残るは更に前、拓馬の3つ前の席、名波の席の通路を挟んだ隣の席の人物のものだと判明(仮)した。

たしか名前は・・・と思い出しながら隆は持っていた紙を見る。

そこには『オペレーション・リリィ』と書かれた作戦の概要が記されてあった。

目を通してみると、昨日のストーキング集団の幹部が名波のことを誘惑・・・というよりも告白して成功して~というような内容だった。


「よかったらうちに来ない?」


そんな時にふと耳にそんなセリフが聞こえてきた。

紙から顔を上げて、声の主を探すと、さっきの名波の横の席の女子であることに気づいた隆は、持っていた紙の内容を思い出す。

そして全てを繋げる。

ここで今日一日の名波へのストレスを晴らすためと、昨日の一連の出来事に対する完全な八つ当たりに向けて、隆は自分のイタズラスイッチを全力でONにした。

普段からイタズラ心を忘れないようにしている隆は、作戦を考えるのに1秒もかからない。8割閃きだ。残りは1割がぬかりなく手を回すことで、もう1割はニヤつかないように表情筋の制御に回す。

『オペレーション・リリィ』などと言ってはいるが、イタズラのプロである隆から見ると、その作戦は穴だらけだった。

まず第一に家に誘うことから始めなければいけないのがよくわからなかった。

学校の誰も居ないところで言えばいいじゃないか。そう隆は思った。

たくさんある作戦の穴を頭の中で挙げながら、自分のプランを考えている。

そして決まった作戦はこうだ。


一、家に行かせないようにする。

二、一緒に放課後行動をさせる。

三、いつもとは少し違う自分を見せて警戒心を解く。

四、黒木とは別々で帰らせる。

五、ファンクラブのメンバーを聞き出す。


こんな感じ。

ざっくりとこの作戦が決まるまで約0.7秒。そして行動に移そうと足を踏み出すまで約1秒。

さすがイタズラのプロは考えるスピードが違いますね。

ここだけ見ると、好きな女の子を取られまいとする男の子のようですが、そこはドSの隆。あんな美少女で自分のS心をくすぐってくるのに、嫌な顔をしながらもめげずに何度も立ち上がってくる逸材を手放したくないと思っての行動です。

もしもあの変な作戦通りに事が進んだら、隆にとってはせっかく手に入れたおもちゃを取り上げられてしまうようなものなのです。

ちなみに作戦の五は実行する気はなかった。聞けたらラッキーぐらいに思って一応作戦に入れていた。




そして今。

クレープを食べ終わった段階で、作戦の一~三までは順調にクリアしており、拓馬への手回しも完了している。

いつも以上に気を使う状況だが、達成した時の清々しさを考えるとニヤニヤを抑えている表情筋にも力が入った。


「このあとはどうするんだ?」

「私はもうクレープ奢ってもらっちゃったから満足したし・・・帰る?」


拓馬の質問に名波が答える。


「そうだな。これ以上ここに居て金を使わされても困るしな」

「ヒドイ! 私ってそんな女に見られてるの?」

「今日の態度を見てたらそう思わずにはいられないだろうが」

「そうだそうだ!」


隆の言葉に拓馬も乗ってくる。

こういうところで黒タイツに惹かれずに、友達を選んで援護してくれるところが拓馬の良いところだと隆は考えている。


「はいはい。じゃあ今日はこれでお開きにしましょうか」

「えーと・・・黒木は俺たちと同じ方向なんだけど、竹中は?」

「あ、私はバスだからこっち・・・かな」


いつもと違う隆に少し緊張してしまった有紀は、すっかり作戦のことを忘れてこの場を楽しんでしまっていた。最初に比べて口数は多くなったものの、それでもまだ慣れていない感はあった。

しかしそんな有紀に話しかけた隆は、これで警戒心が解けただろうと思った。


「そっか。じゃあまた明日ね。有紀ちゃん」

「うん、また明日」


バイバイと手を振る四人。

有紀と別れた三人は電車に乗るため駅へと向かって歩いていった。


「今日は二人ともありがとね。クレープとか奢ってもらっちゃったし」

「俺は黒タイツを見るための見学料だと思っていたから問題は無い!」

「木下はどこまで変態なんだ」

「明日からまた地獄が待っているから覚悟しておけよ」

「それは勘弁してください」


穏やかじゃない冗談を隆が言うと、笑いながら頭を下げる名波。

きっとこういう人当たりの良さというかそんな感じのところも、美少女たる所以なのかもしれない。


「それにしても寒いね」


自分のからだを抱きしめながら名波が言う。

季節は11月。

その夕方ともなれば結構寒くなってくる時間帯である。


「そうだなー」

「ねぇ! 二人の上着貸してよ!」


そう言って無邪気に笑い、二人の真ん中に割り込んで入りそれぞれの腕に自分の腕を絡める名波。

普通の男子高校生ならば、名波の可愛さに撃ち落とされているだろうが、そこは拓馬と隆である。


「触るな。誰が上着なんか貸すか」

「逆立ちして黒タイツが上にきたら黒タイツに上着を貸してやる。お前には貸さん」

「ちょっ!痛いし!」


そう言って互いの距離を詰めて名波を二人の間から押し出す。


「もうイジワルなんだから!」


口ではそういうものの、とても笑顔で二人を風よけにしながら後ろに付いて歩いていく。


三人は今日も仲良しだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。


今回で有紀の作戦編が終了です。

次回からはまた日常コメディ(笑)に戻ります。


というわけで次回もお楽しみに!

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