市原一花はくじけない
体育の授業はそのままサボった三人は、何かをやり遂げたかのような達成感を背負って教室へと戻った。
教室に戻ると、クラスメイトから『あとで体育準備室に来るように』との伝言を受け取った。
「いやー。それにしてもよかったよかった。さて、隆くん。名波ちゃんとそーゆー仲になったわけですけど、今の心境は?」
隆の席につくなり、筆箱を手に持ってリポーター兼冷かし役を始める拓馬。
「何回言わせるんだ。変わらねぇよ」
「じゃあ名波ちゃんは?」
「私も変わらないよ。だって隆は隆だもん」
「なんか不思議な感じだよなー」
「何が?」
「だってホントに付き合うとは思わなかったからさ」
「あー・・・でもただ思ってたことを言い合っただけって感覚なんだけどな」
「そうそう。全然イチャイチャするわけでもないし、ましてこんな公衆の面前でなんて・・・」
名波が辺りを見回すと、なぜかクラスの全員が三人を見ていた。
何か変なことを言ったのかと思い拓馬と隆を見たが、二人もよくわかっていない様子だった。
「き、木下君・・・」
「げっ、市原。なんか用か?」
「ここはクラス委員長として聞かせてもらうんだけど、その・・・」
一花は周りを見渡してクラスの全員に視線だけで確認を取る。クラスメイト達もその視線に頷いたりして応える。
よくわかっていない三人は頭に『?』を浮かべている。
「じゃあ聞くわよ。スゥー・・・ハァー・・・。よしっ。ではお尋ねしますが、相沢君と黒木さんは付き合っているんですか?」
クラス内にどよめきが走った。
そこで初めて納得がいったというような表情を見せる三人。
学校一の美少女で、全校生徒のアイドル的存在である名波と、ある者からは影で好かれ、ある者からはイタズラ王子と呼ばれ、またあるファンクラブからは嫌われてきた影の有名人である隆が付き合い始めたとなれば、それはもう大変なことです。臨時の全校集会が開かれてもおかしくないぐらいの事件です。
そして、その真意を確かめるべくして、委員長の一花が立ち上がったというわけです。
「おう。付き合ってるぞ」
「「拓馬ぁぁぁああああ!!」」
「は? なんか俺変なこと言ったか?」
まさかの拓馬からの返答にクラス内は大パニックとなった。
電話で叫んでいる者もいれば、メールの文章を超高速で打っている者もいる。そうかと思えば教室でうなだれている者もいれば、窓を開け放って外に向かって叫んでいる者もいた。
とにかく大パニックだった。
ちなみに有紀はうなだれている人間の一人です。
そんな大パニックになる事実を聞き出した張本人である一花が、拓馬に話しかける。
「木下君。それは事実なの?」
「あー・・・」
「あぁ事実だよ。俺たち付き合い始めたんだ」
これ以上言っていいものかと悩んでいた拓馬に変わって、今度は当事者の一人である隆が答えた。
「って言っても、ただ両思いなのを確認したに過ぎないぞ?」
「相沢君。彼らを見てご覧なさい。どれだけ両思いになるのが難しいと思ってるの? 毎日毎日顔を覚えてもらうためにあんな手やこんな手を試しているのに、結局こちらから折れないと顔すら覚えてもらえないのよ?」
「いや、委員長と拓馬の関係は特別すぎるだろ」
途中から自分の特殊な恋愛の愚痴になっていた一花を、きちんとつっこんだ隆。そして隆は続ける。
「他人の恋愛とか付き合い方とかはどうかは知らんが、俺と名波はこーゆー付き合い方をしていくんだ。邪魔するようなら俺は怒るぞ」
そても真剣な顔を一花に向けて言い放った隆。しかし、一花にはこうかはいまひとつだったようだ。
「私は別に相沢君と黒木さんがくっついてもくっつかなくてもどっちでもいいわ。ただ木下君の気持ちが私に向いているのならそれでいいのよ」
「ふふふ。残念だったな、市原。俺にもついに好きな人が出来たのだよ!」
「な、なんですってー!!」
公衆の面前で声高らかに宣言した拓馬。一花は冗談を抜きにして、驚いた衝撃で後ろに吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ衝撃でスカートがめくれ上がって、黒タイツに包まれたパンツが見えてしまったが隆は見ていないことにした。
周りの机を巻き込みながら倒れた一花が、手をついてなんとか立ち上がりながら拓馬に聞く。
「そ、それは本当なのかしら?」
「あぁ。まごうことなき事実だ」
「ホントにホントにホント?」
「ホントにホントにホントだ」
一花はその場に崩れ落ちた。そしてものすごいスピードで呪詛のような独り言をつぶやいている。
『私の木下君に好きな人ができたなんて信じられないだって木下君は私と付き合う予定だったのにどこの馬の骨とも知らない女のことを好きなるなんてありえないこれは早いうちに排除しないとこの世界が危ないまずは木下君の好きな相手を探し出すことからねそうよ負けるな一花頑張れ一花!!』
「よしっ! で、どこの女なのかしら?」
時間にして約3秒で最底辺からいつもの高さまで浮上することに成功した一花が、普段通りの口調と態度で聞いた。
「それがわかんないんだよ」
「どういうことなの?」
「実は今日の朝な・・・」
一花は今日の朝の拓馬の出来事を簡潔に説明してもらった。
「私が言うのはどうかと思うけど、それでよく好きになれたわね」
「恋はするものじゃない。落ちるものなんだ。あの一瞬で確実に愛のブラックホールに落ちたね」
「ブラックホールは吸い込まれるんだからな」
「で、俺はあの子を探してるんだけど、市原は知らないか?」
「もし知ってたとしても教えたくないわね。何が悲しくてライバルを増やさないといけないのよ」
「うわー。市原って性格悪いな。評価ガタ落ちだわー」
「さっきのは冗談です! 是非協力させてください!」
こうして一花を含めた4人で拓馬が恋する女子高生探しが始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると踊り狂います。
市原さんは大変ですね。
次回もお楽しみに!