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体育館を出た二人は、例の水飲み場がある西階段を登っていた。


「もしさ、あの質問に答えてって言ったら名波はどっちを選ぶんだろうな?」

「やめろよ。だから悩んでるんだろ?」

「そうだよな。悪い・・・」

「いや、謝らなくたって・・・」


目的の場所へと近づくにつれて、拓馬と隆の口数は減っていった。そこに名波がいるという確証はないのだが、もし名波がいた時に『なんて声をかければいいのか』、『悩んでいる原因を聞いていいのか』、『サボってまで考えてしまうような悩みなのだろうか』などの疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消えしていた。

早く名波に会いたいようで会いたくないような気持ちだった。

そしてついに例の水飲み場へ到着してしまった。

奥へ進んでいくと、廊下からは死角となる壁に背中をつけて座り込んでいる名波の姿があった。


「名波」

「あ・・・」

「どうしたんだよ。授業サボるなんて名波らしくないぞ」


階段を登りながら考えていた言葉を口にした拓馬。しかしその言葉を聞いた名波は両膝に顔をうずめてしまった。


「ほら。体育館戻ろうぜ。今ならまだトイレ行ってましたーって誤魔化せるからさ」


拓馬が名波に手を差し伸べたが、顔をうずめたまま首を横に振る名波。

行き場を失った手で頭をかいて、隆と目を合わせる。


「名波。何があった? 俺たちに言えないようなことなのか?」


隆が名波の前にしゃがみこんで話しかける。

すると、名波から鼻水をすする音が聞こえた。

隆が強引に頭を両手で掴んで顔を上げさせると、そこには両目に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな名波の顔があった。


「お前・・・なんで泣いてるんだよ」


名波は隆の手から振り払うようにして離れると、再び両膝の間へと顔を隠した。


「名波?」

「もしかして俺が原因なのか? 俺の朝のテンションが気持ち悪かったんなら謝るよ。ごめんな」


名波が首を横に振る。


「名波。俺たちに話せないことなのか?」


少し迷ったのか、少し間があって首を横に振る。


「だったら話してみないか?」


だんまりを決め込んでいた名波が顔をうずめたまま話し始める。


「・・・今日ね、早く来たの。バレンタインデーだから、二人を驚かせようと思って、教室に入って来たと同時にダッシュで大福投げつけてやろうと思ってたの・・・」

「猟奇的すぎるだろ。食べ物を粗末にするな」


顔をうずめたまま話す名波に拓馬がつっこむ。


「だって、いっつもやられてばっかりだから、今日は仕返ししてやろうかと思って。でね、教室で待ってる時に有紀ちゃんが来て、チョコくれたの。それでその・・」

「告白されたんだろ? 竹中から聞き出した」

「そうなんだ。告白されたんだけど、女の子同士だしって断ったら『どっちが好きなの?』って聞かれて・・・」

「それで悩んでるのか?」


首を縦に振る名波。


「最初は二人とも大切な友達だよって答えたんだけど、有紀ちゃんは納得してくれなかったみたいで、『もし二人から迫られたらどうするの?』って言われて・・・」


そこで名波の口が止まって、鼻水をすする音が聞こえる。

隆が拓馬のほうを見ると、なんとも言えないような表情をしていた。さっき階段を登りながら話していた内容が現実で起きているのだ。

隆が名波の横に座り込むと、それを見た拓馬も名波を挟んで隆の反対側に座り込む。


「それでお前はなんて答えたんだ?」


隆が聞いた。


「そんなの・・・選べないよ・・・」


名波が少し顔を上げて答えた。


「聞かれてからずっと考えてたんだけど、どっちかなんて選べないよ。前も言ったけど、どっちも好きだもん」


困り果てている名波に拓馬が訪ねた。


「それってさ、俺と隆のことがおんなじ意味で好きってこと?」

「・・・どーゆーこと?」


拓馬の質問の意味がわからず聞き返す名波。


「俺さ、冬休み前ぐらいに名波が好きだった時期があるんだ。でもさ、それってライクって意味で、ラブではなかったんだ。それに気づいたのが、今日の朝に黒タイツ履いてない子を見て、初めてときめいた時だったんだ」

「それって朝に言ってたやつ?」

「そうそう。今の俺って、あの子のことが本気で好きみたいなんだ。だからあの子の事を見つけてやるって思ってる」

「拓馬・・・」

「でも、俺は名波のことは好きだし、もしも俺とその子が付き合ったとしても、何かあって名波が困ってたとしたら、俺は名波を助けに行く」

「そっか・・・嬉しいな・・・」


拓馬の話を聞いた名波が小さく笑った。


「まぁ俺はそのくらい名波のことを大事に思ってるわけなんだけど、名波は俺と隆を同じ意味で好き?」


拓馬の質問に、名波が膝に顎を乗せて考えた。

すぐに答えが出たらしく、膝から顎を離して拓馬の方を見る。


「私も拓馬のことが好き。でもたぶんこれはライクのほうなんだと思う。だって今は拓馬の恋を応援したいと思うもん」

「そうかそうか」


拓馬は名波の顔を見て大きく頷く。

そして名波は反対側にいる隆のほうを向く。しかし隆は前を向いたままで名波のほうを見ていないが、そのまま話し始めた。


「隆のことも好き。・・・でも拓馬と違って、隆に好きな人が出来たら、泣くかもしれない」

「・・・・・・」

「これって拓馬のことを好きな気持ちとは違う・・・よね?」

「・・・多分な」


名波に聞かれてチラリと横目で見て短く答えた。


「隆。私、隆のことが好き。多分愛してるんだと思う。他の人に取られるぐらいなら私の物にしたいと思う」


まっすぐに隆の方を見て言い切った名波に吸い込まれるかのように、視線を名波の顔へと向ける隆。

そしてじっと見つめ合ってからまた視線をそらした。


「・・・俺もだ」

「えっ?」

「俺も名波が他の男に取られるのは我慢できないと思う。それが拓馬ならまだ我慢できると思うけど、それ以外は無理だ」

「えっと、それって・・・」

「俺もお前が好きだ」


名波のほうを見てハッキリと口にする隆。

しかし名波の向こうに見えた拓馬がものすごいニヤけた笑顔で見ているのが視界に入って、恥ずかしくなってまた視線をそらす隆。


「あ・・・やったー。嬉しいなぁー」

「それ、ホントに喜んでるのか?」

「嬉しいよ。嬉しいんだろうけど、あんまり実感ないんだよねー・・・」

「大丈夫だ。俺も全然実感無いから。だいたい、こうやって相手の気持ちが分かったからって、付き合うとかよくわかんねぇし」

「そうだよね。ねぇ拓馬、何したらいいの?」


たった今お互いの気持ちを伝えあった二人からの熱い視線を受けた拓馬は、ものすごい笑顔のまま答えた。


「キスしちゃえよ」

「「いや、それはまだ恥ずかしいわ」」


息ピッタリで答える隆と名波。

全く同時だったことに驚いて顔を見合わせるが、隆が恥ずかしくなってすぐにそっぽを向いた。


「隆ー。そんなに恥ずかしがってたら先がもたないぞ?」

「そんなこと言われてもなぁ。変に意識しちゃって恥ずかしいんだよ」

「あ、やっぱり隆って恥ずかしがり屋なんだねー」

「どーん!」

「きゃっ!」

「いてっ!」


なんやかんやで焦れったい二人の距離を縮めようと、拓馬が名波の背中を物理的に押して、隆のからだに密着させた。

その効果があったのかどうかわからないが、くっついたまま声も出さずに動かなくなってしまった。

隆は宙に、名波は床に視線を向けているが、互いのからだを突き放すわけでもなく、そのまま固まっていた。

そしてほとんど同時に視線を互いの顔に合わせると見つめ合った。


「まったく・・・あんまり泣くなよ?」

「隆こそ泣かさないでよね」


名波の頭を撫でる隆を見た拓馬は、空気を読んで立ち上がって廊下へと歩いていった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると大変感謝感激します。


ついにカップル誕生です。

長かったですねー。

次回からは拓馬の恋路編です。


次回もお楽しみに!

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