サボる女
教室に着くなり、名波の席へまっすぐに向かった拓馬が、波乱万丈な朝の恋の話をできるだけ劇的に名波に話すと、なんとも複雑そうな顔をしていた。
そんな名波に、初めて味わっているかもしれない気持ちのせいでテンションが上がりっぱなしの拓馬が絡む。
「どうだ? これは恋ってやつなのか?」
「さぁ? 私もまともに恋をしたことないからよくわかんない」
「フフン。名波もまだお子ちゃまだな」
「そんなに恋の話が聞きたいなら、委員長に聞いたらいいじゃん」
「いや、市原はちょっと遠慮したいかなぁ・・・」
そう言って視線を向けるが、今回は全く気づいていなかったみたいで、視線が合うことはなかった。
ホッと息を吐いてテンションを戻す。
「そこでお子ちゃまの名波ちゃんに質問なんだけど、そんな女の子知らない?」
「知らない」
「・・・名波?」
「何?」
「もしかして機嫌悪い?」
いつもよりもさっぱりしすぎている名波の態度を不審に思った拓馬が顔をのぞき込むようにして聞いた。
聞かれた名波は拓馬の視線から逃れるように、視線を外へと向けた。
「おい。なんかあったのか?」
「ホントに何も無いってば。ちょっとテンションが上がらないだけだよ」
隆が拓馬と目を合わせて肩をすくめる。
チャイムが鳴って、先生が入ってきてしまったので、仕方なしに自分の席へと戻った。
一時間目の授業が終わって名波に話を聞きに行こうかと思った隆だったが、二時間目が体育なので着替えなければいけなかったために諦めた。
今日の体育の授業は前回に、体育のテストをしてすることがなくなったため、またまた自由時間となっていた。女子も同じく自由時間らしく、男子と合同でバドミントンや卓球の準備をせっせとしていた。
そんな体育の授業には参加する気が無いようで、壁を背もたれにして拓馬と隆が座っていた。
「俺、やっぱり名波に悪いことしちゃったのかなぁ?」
「朝のテンションはキモかったけど、名波のテンションの低さは異常だろ。だけどもうちょっと自分の行動に責任を持て」
「でもアレはおかしいでしょ」
「それは俺も思った。やっぱりなんかあったんだろ」
「聞きに行く?」
「もしかしたら言いたくないのかもな。あの名波が言いたくないことなんだぞ?」
言葉を失って沈黙が訪れた。
今までにも、ストーカーされていた時も大量のラブレターをもらって困っていた時でも、なんだかんだで二人にはちゃんと話していた。
しかし今回は話すどころか、はぐらかしてごまかしている。
そんな名波のことを心配しているのだが、原因が全くわからない。
「・・・ってゆーか名波居なくね?」
「・・・ホントだ。どこいったんだ? 真面目ちゃんのあいつが授業サボるなんておかしいよな」
「だな」
「よし。おーい、竹中ー」
名波が居ない理由を聞こうと、近くにいた有紀に声をかける隆。
いつもならばすぐに答えてくれるのだが、今回は聞こえないふりをしているようで、積極的に視線をそらして聞こえないふりをしているようだった。あからさますぎて挙動不審です。
そんな行動を隆が見逃すはずもなく、サッと有紀に近づくと背後から静かに話しかけた。
「おい。俺を無視するとはいい度胸だな」
「ひぃっ!」
もう完全にあっち系の人ですね。
「正直に答えろ。名波になんかしたのか?」
「私はただ告白しただけで・・・」
「はぁ? 告白ぅ?」
「は、はい。バ、バレンタインデーなんだし、チョコをあげて告白するのは、お、女の子の特権でしょ」
「で、それと名波が授業サボってるのとどーゆー関係があるんだよ」
「い、意味がわからな」
「あぁん?」
「す、すみません! その時に私が『木下くんと相沢くんのどっちが好きなの?』って聞いたのが原因かもしれません! すみません!」
ドスの聞いた隆の声にビビりながらも全部を吐ききった有紀は、言い終わると同時に体育館の隅っこへと逃げていった。
頃合を見てやってきた拓馬に状況を説明した。
「つまり名波がサボってるのって、俺たちが原因なのか?」
「かもな。こうなったら本人をとっ捕まえて聞くしかねぇな」
「言い方に問題ありだろ。少し落ち着けよ」
「そうだな。落ち着こう」
「そうそう。落ち着くときには黒タイツの本数を数えるんだ。黒タイツが一本。黒タイツが二本。黒タイツが」
「もういいよ。変に落ち着いたよ」
「ならよかった。で、参謀の隆さん。どこにいると思いますか?」
「あいつ、なんやかんやで素直だから人気の無いところにいると思うんだ。で、人気の無いところと言えば?」
「あーあそこね」
例の水呑場ですね。
目的地も決まり、堂々と体育館から出て、名波捜索隊としての一歩を踏み出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
シリアスな展開ですみません。
次回もお楽しみに!