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拓馬、恋に落ちる

「はぁ? マジかよ」


バレンタインデーの朝、拓馬と登校していた隆が素っ頓狂な声を発した。

拓馬としては本気と書いてマジと読むぐらい、大マジで話していたのだが隆が信じてくれないので、大真面目に真剣に本気で誠心誠意を込めて言ったところ、さっきのような声を出されたのである。


「マジだって。いい加減に信じろよ」

「いや、だって拓馬と言えば黒タイツ大好きな変態として有名じゃん?」

「それは本人の前で失礼だろ」

「失礼でも事実だろ。そんな拓馬が黒タイツも履いてない普通の女の人が気になっているなんて言われても信じられねぇって」

「いやいや。だからこれが事実なんだって。俺もびっくりしてるんだから」

「もしかして実はすごい薄い黒タイツ履いてたってことはないよな?」

「俺を誰だと思ってるんだ。黒タイツを履いてるか履いてないかぐらいは雰囲気でわかる」

「断言されても困るわ」


腰に手を当ててキリッっと答える拓馬。

隆が信じられないのも無理はありません。なんせ拓馬の口から飛び出したのは『俺、もしかしたら好きな人出来たかもしれない』なのですから。



今から30分ぐらい前。

隆と同じ電車に乗るために駅へと歩いていた拓馬。その道の途中に歩道橋があるのだが、その歩道橋を登ろうとしたとき、上から一人のおばあちゃんと一人の高校生の女の子が降りてきた。

その女子高生は最近では珍しく、上から降りてきたおばあちゃんの肩に手をやり、荷物を空いた手で持ちながら一緒に降りるという、高度な親切テクニックを披露していた。

マンガやドラマではよく見かける光景ではあるが、実際に目の前で繰り広げられていたその光景に、思わず見とれてしまった拓馬は、ボーッとその女子高生の行動を見ていた。

その女子高生は、短い茶髪で少しガサツそうなイメージだった。もちろん黒タイツを履いていなかった。

一番下まで下りきったところで、おばあちゃんが女子高生にペコペコと頭を下げてお礼を言っていました。


「ありがとうねぇ。本当に助かったよ」

「いいって。気にすんなよ。冬の歩道橋は滑るから気をつけろよ。・・・あっ」


その時、拓馬の視線に気づいた女子高生は恥ずかしそうに目をそらすと、そそくさと立ち去ってしまった。

そのほんの少しの間で、拓馬はその女子高生に惹かれてしまったのだ。




「つまり一目惚れしてしまったと」

「黒タイツも履いてないのに顔がハッキリと思い出せるんだよ。これって恋だと思わね?」

「普通ならそこは決定打にならねぇんだけど、拓馬の場合は前例が多過ぎるからな・・・」

「だろ? なんか俺気づいちゃったんだよねぇ。この気持ちは名波の時とは違う感じだもん」

「名波はライクで、その子はラブってことか」

「そーゆーこと」

「でもその女子高生ってどこの人なんだ? あそこから行ける学校っていったら結構あるぞ?」


拓馬と隆の家の近辺はベッドタウンとなっていて、いろいろな人たちが住んでいる。もちろん家族世帯が多いのだが、高校だけは近くに無いので、駅から電車に乗って通学する形になる。バスもあるが、バスは時間通りに動いてくれないために、あまり需要は多くない。

そして今日の女子高生は拓馬達とは別の学校の制服を着ていたが、あまりにボーッとしていたので、どこの制服かなどわかるはずもなかった。

その女子高生の手掛かりらしい手掛かりは、短い茶髪に少し雑な口調と言うことしかわからなかったのである。


「うーん・・・隆でもわからないよな?」

「さすがに情報が少なすぎる。これでわかったら病気だよ」

「だよなー・・・」

「もしもその子を見つけたとして、お前はどうしたいんだ?」

「どうって・・・どうしたいんだろうな? できたら付き合いたいとは思うけど、あの子の事何も知らないんだよな」


いつになく真面目な表情で考え込む拓馬。そんな拓馬を隆は珍しそうに見ていた。

拓馬が真剣に考え込むのは、一花に黒タイツを履かせるためにはどうしたらいいのかと考えていたとき以来だった。意外と最近でした。


「ホントに惚れたのか?」

「んー・・・わかんね。でもちょっとその子と話してみたい気はするかな」

「・・・珍しいこともあるもんだな」

「なにが?」

「あれだけ黒タイツ黒タイツって言ってたやつが、黒タイツを履いてない女の子のことが気になるなんて、天変地異の前触れかなんかだろ」

「人の恋路を災害みたいに言うな」

「もう俺にとっては災害レベルなんだよ。これで今日の帰りに電車が止まってなかったら、地球は滅ぶな」

「そんなにか? とりあえず、俺はあの子を探してみることにするよ」

「本気だな」

「まぁな。俺はやるときはやる男だ」

「なら名波にも報告してやらないとな。ってゆーか名波なら制服の特徴とかでわかるんじゃね?」

「おー! 頼れるべきは最愛の友ってやつだな!」

「そんな言葉初めて聞いたぞ」

「そうと決まればダッシュだ!」


そう言うなり走っていってしまった拓馬。そんな拓馬の背中を見て隆は小さく呟いた。


「拓馬も恋するんだな・・・」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると踊り狂います。


まさかの拓馬の恋路です。


次回もお楽しみに!

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