落花生とチョコレート
2月は一年の中で一番短い月のはずなのに、なにかと行事が多い月でもある。
先日の節分が終わったと思ったら、次の週末にはすぐにバレンタインデーという乙女の日がある。この時期になるとクラスの中の男子のテンションが異様に高くなる。やたらと大きい声で話したり、席を立つ回数が増えたりと、男子限定だが落ち着かない時期である。
そんなソワソワした雰囲気の中で、のんびりと隆の席で落花生をポリポリと食べていた拓馬と隆。
手で割って中身を取り出すと、殻を学校でもらったプリントで作った箱の中に入れていく。
「なんか面白いよな」
「何がー?」
「なんていうか・・・滑稽?」
「誰がー?」
「みんな。そんなにチョコレートが欲しいのかね?」
「俺は落花生のほうが好きだけどなー」
「チョコも好きだけど、大福とかのほうが嬉しいな。お茶とか飲みながらさ」
「わかるわかる!」
周りの男子達が『このイケメン共がっ!』という視線をぶつけているが、全く気にしていない様子で老人級のトークを繰り広げる拓馬と隆。
この二人は、毎年2桁オーバーのチョコをもらっております。隆のチョコに関しては、知らないうちに机の中やカバンの中に入っていて、ほとんどが宛先不明の物が多いです。
そこへ名波がやってきた。
「何の話?」
「チョコの話」
「あーバレンタインデー近いもんねー」
「名波は誰かにあげるのか?」
「もちろん拓馬と隆にあげるよ」
「「ありがとうございます」」
座ったままお辞儀をする拓馬と隆。名波も近くの空いてる席の椅子を借りてきて座り、二人と一緒に落花生をポリポリと食べ始める。
「やっぱり男子ってチョコもらえるの嬉しいの?」
「そりゃ嬉しいだろうよ」
「でも意中の相手からもらえなかった時の悔しさとかハンパないんだろうな」
「あーわかるわー」
「ふーん。二人は誰かから貰いたかったの?」
「それで大福とかのほうが嬉しいよなって話をしてたのだよ」
「もし日本のバレンタインがチョコじゃなくて、文化を重んじて大福を渡すイベントだったらすごいシュールだよな」
「シュールだけどそっちのほうが嬉しいかも!」
「えー! 大福なんて作ったことないよ!」
「そっか。作るの大変だからチョコなのか。あの手作りが難しそうで意外と簡単に出来ちゃうからチョコになったのか」
「拓馬ってチョコも作れるの?」
「いや、さすがにお菓子までは作ったことないかな」
「じゃあ委員長に作ってもらえよ」
「やめてくれ」
そう言いながら、一花のほうをチラリと見ると思わず目が合ってしまって慌てて視線をそらした。
しかし一花のほうもバッチリと目があったので、三人の方へとズンズンと向かってくる。
「何? 私の話?」
三人の前に立って、机の上の落花生を手にとって殻を割り始める。
さりげなく中身を拓馬の前に置いていくのだが、拓馬の手によって一花の前に返却される。
「委員長は誰かにチョコあげるのか?」
「木下君にあげるつもりよ」
「で、拓馬がもらうなら大福のほうが嬉しいってさ」
「ちょ、バカっ」
「ふーん。木下君は大福派なの?」
「何派があるのか知らないけど、俺は和菓子のほうが好きかな」
「なら大福なら受け取ってくれるってこと?」
「でも俺は本命は受け取らないぞ?」
「黒木さんのは本命じゃないの?」
突然話を振られて驚きながらも、首をかしげて考える名波。
冷静を装って話しておりますが、この一花という女、心臓が飛び出るぐらい緊張しています。
なにせ拓馬の本命と疑っている名波と対峙しているのです。女としての大勝負が水面下で繰り広げられているのです。
「え? 私? うーん・・・本命なのかな? でも友達だし・・・」
「義理か本命かって言われたら?」
一花のすごい剣幕に、さすがの名波も空気を読んで答えた。
「う、うーん・・・義理かな」
「そうなのね。わかったわ。じゃあ私も義理チョコ作ってくるわ」
最後に拓馬に返品された落花生をニヤニヤしながら手に取ると、一花は自分の席に戻っていった。
拓馬と名波がハァと息を吐いた。
「怖かったー」
「市原から離れるために隆の席に非難してるのに、隙あらば寄ってくるなぁ」
「それだけ愛されてるってことだろ」
「市原に愛されてもあんまり嬉しくないな。それならまだ名波と付き合ったほうがマシだ」
「マシって何さー。拓馬にチョコあげないからね」
「いやいや、マシってそーゆー意味じゃなくて」
「冗談だよ。ちゃんとあげるよ。隆のチョコを作った時に余った部分で作るってば」
「ごめんって。俺も名波のこと好きだから、チョコ作ってきてよー」
「お前らはバカップルか? それにどんだけチョコ欲しいんだよ」
「もらえるもんはもらっておきたいだろ」
「じゃあこの落花生は俺のもんな」
落花生が入っている袋を手にとって抱きかかえる隆。
「まだ私ちょっとしか食べてないー」
「名波ちゃんには分けてあげよう」
「わーい!」
隆が一つを袋から取って名波に渡すと、両手を上げて喜んだ。
「もともと俺が持ってきたやつなんだぞー」
「これ拓馬のだったの?」
「昨日、豆まきしようと思って買って帰ったんだけど、誰も乗り気じゃなかったからやらずにカバンの中に入れっぱなしだったんだ。で、話のツマミに食べてるわけ」
「そうだったんだー」
「そーゆーわけ」
「で、二人はチョコなら何がいい?」
「俺、フォンダンショコラ」
「じゃあ俺はトリュフがいいなぁ」
「よしよし。私からもらうチョコならなんでも良いってわけね。じゃあ普通の手作りっぽいチョコ作ってくるね」
顔を見合わせる拓馬と隆。
「・・・もしかしてチョコ作れないのか?」
「ギクリ」
「じゃあ聞くなよ。俺たちはお前からもらえるならそれだけで嬉しいよ」
「そうそう。だから無理してガトーショコラなんか作らなくても大丈夫だからな」
「そっか・・・」
そう言いながら落花生の殻を割り、中身の豆を一粒ずつ拓馬と隆に渡した。
それを両手で受け取り、深々とおじぎをする拓馬と隆。
「「ありがとうございます」」
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ごめんなさい。 最近謝ってばかりのような・・・
次回は恋する乙女のターンです。
次回もお楽しみに!