女性幹部の作戦~邪魔する者とされる者~
放課後。
名波、有紀、拓馬、隆の四人は学校近くの大型ショッピングストアに来ていた。
ここには食品などが売っているスーパーはもちろん、服屋、小物屋、フードコート、占い屋などありとあらゆる店が揃っていて、夕方のこの時間は学校帰りの高校生や放課後デートを楽しむカップル、夜ごはんの買出しに来た近所のおばちゃん、一人暮らしのサラリーマンなど、様々な年齢性別の人間が集まっている。
その建物内に四人も入り込む。
「なぁ黒木ー。奢るって言ったけど、あんまり高いのはやめてくれよ?」
高校生の財力なめんなよ? とばかりに弱気な発言をするのは変態紳士の拓馬。ここに到着するまでに、5回以上は財布の中身を確認している。
「大丈夫よ。おやつになりそうなものを奢ってもらおうと思ってるだけだから、そんなに高いものはねだらないから」
「・・・なんか優しい黒木って気持ち悪いな」
「木下には手加減しないことに決めた」
「すんませんでした!!」
隆が『友達も誘えばいいさ』と言ってくれたことに少し機嫌を良くしたのか、奴隷の拓馬に少しばかり優しくしているのは、左手を包帯で固めた美少女名波。ここに到着するまでに、3回以上は『相沢も少しいいところがあるんだね』と言っている。
そんな名波に道中何回も言われた隆が口を開く。
「拓馬。お前はもう大人しく黒タイツでも見てろ。これ以上奢る金額が増えたらたまらん」
「へーい」
「あの、私も来て良かったんですか?」
そう隆に言うのは、黒髪の女子高生の有紀である。
有紀はなんとなく作戦の延長でここまで付いてきてしまったが、冷静になって考えると、家に誘うのを違う日にずらせばよかっただけのような気がしていた。
それにどこかで例の作戦の紙を無くしてしまったらしく、さっきからカバンをちょくちょく探しているが見つからない。机の中にいれたままなのかもしれない。それが有紀の作戦への不安を加速させていた。
しかもここにいると、相沢と木下に借りを作ってしまうような気がして地味に苦痛だった。
そんな有紀の気持ちを知ってか知らずか隆は、問題ないさ、と言う。
「黒木の友達なんだろ? 別に一緒に来たって変じゃないだろ。それに俺と拓馬は黒木の奴隷なんだ。断って奢る金額が増えても困る。お互い得をしてるんだから気にするな」
小さく微笑む隆。いつもとは少し違う隆の一面を垣間見た気がして、一瞬きゅんとしてしまった有紀だが、相沢は敵だと認識し直すことでなんとか平常心をキープする。
名波のほうに向かって隆が問いかける。
「ところで俺たちは何を奢らされるんだ?」
「ちょっと落ち着きなさいよ。たしかあの辺に・・・あった!」
名波の視線の先には、クレープ屋があった。
それが目に入るなり、小さい子のように楽しそうに走っていく名波。
健全と走りゆく美しい黒タイツに目を奪われる拓馬。
健全な笑顔で走っていく名波に見とれる有紀。
そんな二人を見ながらポケットの中をごそごそとしている隆。
「みんなー! 何してんのー? 早く奢ってよー!」
「はいはい。なんだあいつ。かなりご機嫌じゃないか・・・」
拓馬が少し悔しそうにつぶやく。それを聞いていた隆が拓馬に近寄って何か耳元で囁く。
隆が拓馬のポケットに何かを入れて離れると、拓馬が不思議そうな表情を浮かべる。
このイタズラ男、また何かよからぬことを考えている様子。
「ちょっと! 早く来てよ!」
「ほら姫様がご立腹だ」
「はいはい。今行きますよーっと」
二人が歩いて名波のところへと向かうのを見て、あとを追うように有紀も名波の元へと向かった。
「んー! おいひい!」
「姫様。お気に召しましたかな?」
「満足じゃ!」
美味しそうにクレープを頬張る名波。
四人がけのテーブルに座っている。名波の向かいに拓馬、有紀の向かいに隆がそれぞれ座っている。
実際、あれだけのことを毎日毎日させられて、クレープ一つで許されてしまう関係とはどうなのだろうか。
そんなことを考えていると、最終的には『黒木M説』へとたどり着いてしまう拓馬であった。
「あの、私も奢ってもらって良かったんですか?」
有紀が申し訳なさそうに、自分の向かいに座る隆に聞く。
有紀自信はクレープを食べる気はなかったのだが、隆がせっかくだからと奢ったのだ。
「細かいことは気にするな。そんなことよりもなんで敬語なんだよ。同じクラスの黒木と友達なんだから俺達にもタメ口で話したっていいと思うぞ?」
「おっ! 今日の相沢はなんかいつもと違うねぇ! ついに良心が芽生えてきたのかな?」
クレープを食べてご機嫌なお姫様は、いつもと違って良心の塊である隆に感心していた。
その隆の横で拓馬は、先ほど隆がポケットに入れた紙を見ていた。
あの時、隆が拓馬に耳打ちした内容はこうである。
『面白いものを拾った。あとで隙を見て読んでみろ』
隆が良心全開で話している今がチャンスと思い読んでみた。
そこに書かれていたのは『オペレーション・リリィ』と命名された謎の作戦の概要が書かれたものであり、そこにはなにやら自分たちの名前も書いてあった。
少し驚きながらも軽く内容がわかる程度に目を通した拓馬は、それをポケットに入れ直してから隆を見る。
待ってましたとばかりに視線を合わせてきた隆は、チラリと有紀のほうを見る。
拓馬は、なるほど、と心の中で呟く。
隆と拓馬の付き合いは長いため、隆のチラリだけで全てを理解するには十分だった。
作戦のことなんかすっかり忘れているであろう有紀に襲いかかるイタズラ男の魔の手。
果たしてどうなってしまうのか。
続く。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると踊り狂います。
次回はイタズラ男のターンです。
というわけで次回もお楽しみに!