困る拓馬と頑張る一花と拗ねる名波
隆に相談して楽になるはずが、かえって自分の首を締めてしまう形になった。
結局3段階がなんとかと言っていたにもかかわらず、聞くだけ聞いた隆からのアドバイスは特に無く、『頑張れ』と激励されて終わってしまった。
昼休みのあとの授業では、一花が拓馬に絡んでくることは無かったので事なきを得たが、もちろん『おはよう』があったなら『さようなら』もあるわけで・・・
「木下君。市原一花です。さようなら。また明日ね」
先に自分の名前を言ってから挨拶するあたりをみると、一花側もそれなりに工夫している様子です。
それに対して拓馬は、一日中警戒体勢に入っていたため、一花のことを忘れることは無かった。
「さ、さようなら。市原さん」
「なんでそんなにぎこちないのよ」
「いや、あれだけプレッシャーかけられてたらこっちもぎこちなくなりますよ」
「まぁ忘れていないのならとりあえずは良しとするわ。また明日ね」
手を振って拓馬から離れた一花は、入口の近くに座っている隆に手招きされた。
「相沢君から呼ばれるなんて珍しいわね」
「珍しいどころか、多分話すのも初めてかもな」
「ちょっと聞きたいんだけど、木下君のアレってどこまでが本気なの?」
一花の言う『アレ』というのは、もちろん拓馬の記憶力のことです。
「拓馬はいつでも大真面目だ。特に嘘なんてついてないし演技もしてない」
「ふーん。で、なにか用かしら?」
「委員長ってさ、なんであそこまで拓馬に入れ込むわけ? あそこまで重症なら普通諦めるでしょ」
「私負けず嫌いなのよ。・・・って言っても信じてくれないんでしょ?」
「すごい負けず嫌いですねー。これでいいか?」
「はぁ・・・どうしてこの気持ちが木下君には伝わらないのかしら?」
「あいつバカだからな。もっとストレートに言わないと伝わらないと思うぞ?」
「最初はストレートに言ったわよ。テンションが上がりすぎちゃって、すこし失敗しちゃったけど・・・」
「あれで少しか・・・?」
「だからまずは仲良くなろうと思って! 中身も愛せるように頑張ってみようと思ったらいきなりの障壁よ?」
普段、落ち着いているように見える一花も青春真っ只中の高校生である。青春の1ページには恋が必要である!
そんな一花は負けず嫌いなので、一度好きになった相手を簡単に諦めきれないため、まずは友達からということで拓馬に覚えてもらおうと頑張っているのである。
名波はどうか知らないが、隆はすぐに感づいたので、こうして本人からの聞き込みをしてみたのである。
バカな親友が絡んでいる変な恋愛関係なんて面白くて放っておけるわけがない。隆は面白いことが好きなんです。
常に最新の情報を手に入れて高みの見物を楽しむつもりでいた。
「じゃあ委員長はどうすんの? 黒タイツ履いてこないと拓馬に覚えてもらえないぞ?」
「私黒タイツなんて履かないわよ。それこそ負けを認めることになるじゃないの」
「え? 何言ってんの?」
「相沢君はわからなくていいわよ。これは私の問題だから。そんなことよりも、自力で木下君に覚えてもらうんだからあんまり手を出さないでもらえる?」
「もともと出すつもりはない」
「それは助かるわ。じゃあまた明日」
拓馬と同じように隆にも手を振って教室をあとにする一花。
そして一花と入れ替わるように名波が隆のところへとやってきた。なぜか頬を膨らませた状態で。
「・・・どうした?」
「・・・なんでもない」
「もしかしてだけど、当ててもいいか?」
「・・・・・・」
「無言は肯定とみなすからな。お前アレだろ。嫉妬してるんだろ」
「・・・してないもん」
「やっぱりしてるんじゃねぇか」
ムスーっとした表情を変えようとしない名波。そんな名波をニヤニヤとしながら隆が見る。
「別に隆と拓馬が誰と話してたって関係ないもん」
「そのわりにはすごい拗ねてますけど?」
「むー・・・いじわる」
「お前が勝手に勘違いしてるんだろうが」
「だって私だけ置いてけぼりにされてる気がするー」
「あー・・・別に置いてけぼりにはしてないだろ」
「昼休みは拓馬に話しかけても返してくれたのに、さっき話しかけに行ったら上の空だったし、隆は委員長と話してるし・・・誰と話せばいいのさ・・・バカ・・・」
隆は、3つ前の席に座っている有紀がこちらをチラッと見て反応したのに気づいたが、知らんぷりをした。
はぁ、と小さくため息をつくと立ち上がって名波の頭にポンと手を置く。
「そんなに拗ねるな。俺の中ではお前が一番だ。・・・友達としてだけどな」
「隆・・・」
隆のことが好きだが見ているだけで幸せな女子生徒の何人かが、『友達としてだけどな』の部分を聞く前に走って教室を出ていったが、それはまた別のお話。
「だからそのふくれっ面をなんとかしろ。またラブレターもらっちまうぞ?」
「こんな顔でもらえたらみんなモテモテだよ」
「・・・何言ってるんだ? 鈍感にも程があるだろ」
「へ?」
「こんなにいじけてる名波を見たら、俺みたいな奴は一発でイジメたくなっちまうぞ」
「なんでイジメ宣言してるの!?」
「まぁ、さすがに冗談だ。名波は元気な方がいい。そのほうが俺も楽だ」
「ふふっ・・・気を付けますね」
微笑んで顔を見合わせると、席に座って頭を抱えている拓馬を、二人で仲良く迎えに行った。
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もう隆と名波は爆発すればいいのに。
次回もお楽しみに!