市原一花
帰り道。
拓馬が市原一花について名波と隆に聞いてみた。
「もちろん。知ってるよ。市原さんでしょ? うちのクラスのクラス委員長じゃん」
「さすがに俺も知ってる。拓馬は黒タイツ以外は覚えられないから、覚えてないだろ?」
「自慢じゃないけど、正解です。にしても、市原ってクラス委員長だったのか」
「なんかあるのか?」
「いや、なんか口調が落ち着いてる感じだったからさ」
「拓馬もすごい穏やかだったしな」
「だからあれは無意識だったんだってば」
拓馬が一花と話終わって名波と隆のほうを向くと、すごく気持ち悪そうな視線を二人から向けられていた。その場で無意識であることを弁明した拓馬だが、二人の印象が覆ることはなかった。
「なんか委員長といい感じだったけどねー」
「俺もそう思った」
「もう勘弁してくれよー」
「まぁ明日から黒タイツで来るかどうかが問題だな」
「そうなんだよな。もうこればかりはどうしょうもないと俺も思ってる」
「いや、直せよ」
次の日。
いつものように隆と登校してきた拓馬は自分の席へと向かった。
「おはよう。木下君」
「ん? おはよう。って誰だ?」
「ホントだったのね・・・」
あいさつをした一花は、拓馬のリアクションを見て昨日の話が本当であることを確信した。
一花は拓馬に自分のことを説明して思い出してもらった。
「だから言っただろ。俺、全然覚えられないんだってば」
「ここまで来ると病気よね」
「こう見えても自覚してるんで、あんまりいじめないでください」
昨日ニーソックスだった一花。今日は紺のハイソックスを履いていた。
「先に言っておくけど、私は黒タイツ履いてくる気は無いからね? どうせ付き合ってくれない木下君にあわせる必要なんてないもの」
「まぁ無理に履いて来いとは言わないけどさ。でも市原の足なら黒タイツも喜ぶと思うぞ?」
「黒タイツにどんな表現使ってるのよ」
その二人のやりとりをまたもや遠巻きに見ていた隆と、二人よりも遅れて登校してきて隆の席で一緒に見ている名波。どう見てもいい雰囲気なのでちょっかいを出すことが出来ないので、さすがの隆も見ているだけである。名波は名波で、自分とは話し方とか雰囲気がいつもと違う拓馬を見ていて不思議な感覚に陥っている。
二人は思った。
『『もしかして・・・強敵出現?』』
さらに次の日。
またもやあいさつをした一花だが、例のごとく覚えていない拓馬に思い出すまで説明をした。
「もういい加減に諦めろよなぁ」
「いやよ。私こう見えて負けず嫌いなの。木下君に覚えてもらうまではあいさつし続けてやるわ」
そんな一花の決意とは裏腹に、拓馬は参っていた。
ここまで面倒な女子は初めてだったのでどうしたらいいのかわからないのだ。
その日の昼休みに、頼れる相棒の隆に相談することに決め、授業が終わったと同時に隆の席に駆け寄った。
「タカエモーン! 助けてよー!」
「ここは拓馬くんが自分で解決するところだよぉ」
「秘密道具出さなくてもいいから助けてよ! ってゆーか微妙に似てるし」
「なにを助けるんだよ。お前らいい関係じゃん。もう付き合っちゃえよ」
「付き合うとかゆーな! 俺はあんな黒タイツも履かない女とは絶対に付き合わんぞ!」
「まぁムキになるなよ。とりあえず昼飯食べながら考えようぜ?」
拓馬は空いている隆の前の席の椅子に後ろ向きに座って、隆の机の上に弁当を置いた。
そこへ名波も自分の席の椅子を持って合流してきたので、隆の机で三人で狭いながらの昼食タイムとなった。
「あ、拓馬のお弁当おいしそう。玉子焼きもらってもいい?」
「おう。なんでもやるから助けてくれ」
「じゃあ俺は唐揚げもーらい」
「あー! 俺のご飯のお供が! しかし今回は我慢してやるよ! チキショー!」
「そんなに悔しがることなの? 私のふりかけあげようか?」
二人に賄賂が行き渡ったところで改めて相談をする。
「で、どうしたらいいと思う?」
「どうするもこうするも、お前はどうしたいんだよ」
「うーん・・・仲良くしてくれるってのはありがたいんだけど、黒タイツ履いてきてくれないことには・・・それに毎日毎日あーやって説明するのも大変だろうし、毎回忘れられてるのもいい気はしないと思うんだ」
「拓馬にもそんな良識が残ってたんだねー」
「じゃあとりあえずはどうしたいんだよ。いつもみたく3段階で表現してみ」
バカの拓馬が相談を持ちかけてきたときには、隆はいつも『3段階で表現してみろ』と言っている。
3段階とは、下から『最低ライン』・『妥当ライン』・『最高ライン』の3つになっており、『最低ライン』は拓馬自身が妥協できる範囲で全てのことを妥協し尽くしたラインである。『今日の夜ごはんは最低でもお腹が膨れればカロリーメイトだけでもいい!』ぐらいの最低ラインである。
『妥当ライン』は妥協しなかった状態で双方が納得できたときのラインである。『ハンバーグを食べたいと思っていたら、相手もハンバーグが食べたいと思っていた』という感じである。
そして『最高ライン』とは妥協するどころか思いもよらない方向に進んで、全てが理想以上で収まった場合のラインである。『刺身を食べたいと思っていたら、回っていないお寿司屋さんに連れていってもらった!』的な状態である。
そして今回の拓馬の解答はこうだった。
「最低でも毎朝の挨拶はスムーズにしたい。最高は黒タイツを履いてくれたうえで、俺にその足を見せびらかしてほしい」
「ただの変態じゃないの?」
「今回は結構控えめだ」
「えっ! そうなの!? 前はどんなのがあったの?」
「個人情報は機密事項です」
ご飯を食べながらほっぺを膨らませる名波であった。
可愛いですね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
一花回です。
結構好きなキャラに仕上がりそうです。
次回もお楽しみに!