恋みくじ
「あけましておめでとうございます」
「おう。あけおめー」
「ことよろー」
「ちょっと新年の挨拶ぐらいちゃんとやりなよー」
1月3日。三が日最終日の夕方。名波の希望で北海道神宮へと初詣にやってきた三人。
3日にしたのは、単純に人が少ないからである。しかしそれも元旦に比べてという意味であって、普段の閑散とした境内とは違ってそれなりに人もいる。
入口である鳥居の前で待ち合わせをしていて、例のごとく名波が遅れて到着した。
簡単に新年の挨拶を済ませると、並んで境内へと歩いていく。
「ねぇねぇ。二人はお正月何してた?」
「俺は父さんと駅伝見てた」
「うちは大掃除の残り」
「えっ! まだ終わってなかったの?」
「俺以外誰もやらないのさ。まぁ毎年こんなんだから慣れっこですよ」
他愛もない世間話をしていると、あっというまに本殿へとたどり着いた。
正面から見ると、三角屋根に細い角がてっぺんから2本出ていて『X』のようだった。
その『X』の下にある小さな階段を上り、お賽銭の前に立つ。
三人そろって財布の中をがさごそして五円玉を取り出す。
五円玉を入れるとご縁があるのだとか。迷信大好き日本人らしいですよね。
「えーと、五円玉五円玉・・・」
「おい、まだかよ」
「うーん・・・十円玉でいっか」
「無いのか?」
「うん。でも十円玉でいいや」
「せっかくだしそーゆーわけにもいかないだろ」
そう言って隆が自分の財布から五円玉を取り出して名波に渡す。
「あ、ありがと。あとで返すね」
「いいよ。別に五円玉ぐらい」
「じゃあこれは財布の中に入れといて・・・」
「投げろよ」
「ほら。隆とご縁がありますようにってことで」
「無くていいから神様に寄付してやれよ」
「冗談だってば。そんなにカリカリしなくてもいいじゃん」
「後ろがつっかえてんだよ」
名波が後ろを見ると、参拝客がずらーっと並んでいた。
慌てて隆からもらった五円玉を賽銭箱へと放り投げると、鐘のついた縄を振って鐘を鳴らす。
そして名波が賽銭をいれたのを確認して、三人は揃って手をパンパンと二回叩き、目をつぶって願い事をした。
その足で隣のおみくじ売り場へと向かう。おみくじの列に並んで普通のおみくじを買う。
「どうだった?」
「俺は末吉」
「お! 俺も同じー」
「私は中吉! ってどっちが上なの?」
「中吉じゃね? 末っ子とか言うじゃん」
「なら私の勝ちだねー」
「おみくじは勝負じゃないだろ」
隆が内容をフムフムと読み始めたので、それにならって拓馬と名波も読み始める。
「学業・・・怠ることなかれ、か」
「でもさーおみくじって書いてることよくわかんないよな」
「だよね。私なんか中吉とかしか見ないもん」
「じゃあおみくじじゃなくて、朝の星占いとかでいいんじゃないか?」
「星占いはいっぱい見てるよ。で、一番良かったやつを信じるようにしてるー」
「それダメだろ」
「いいの。要は気の持ち方が大事なんだから」
「名波らしいな」
「でしょ? さて本番いきますか!」
「「本番?」」
名波の言葉に首を傾げる拓馬と隆。
そんな二人を見て、名波がおみくじ売り場の横を指さす。
「おみくじの本番と言ったら、やっぱり恋みくじでしょ!」
「なんでだよ・・・」
「おぉ! 俺初めて引くかも!」
全然乗り気じゃない隆と、引く気満々の拓馬。
そして恋みくじ売り場へと駆けていく二人の後を歩いて付いてく。
前を走っていく二人を見ながら、『まるで父親にでもなった気分だな。俺の息子と娘はこうならないように教育しよう』と隆は思った。
なんやかんや言いながら、恋みくじを引く三人。
「あ、これも中吉とかあるんだな」
「なんか場所によって違うみたいだよ」
「ほう・・・フムフム」
普通のおみくじの時よりも真剣に読む拓馬と名波。
拓馬の恋みくじは末吉でした。
『恋の予感はまだ先。今は落ち着くことが大事』
その結果を見た拓馬は、隣で自分の恋みくじを見ている名波を見た。
なんとも複雑な気持ちで自分の恋みくじへと視線を戻す。
「待ち人来たる。今も横に。・・・横?」
「なんでこっち見るんだよ。俺は隆とそーゆー関係にはならないからな」
「俺だってならねぇよ」
隆の恋みくじ通りになると、大変なことになってしまうと思い、素早く否定しておく拓馬であった。
「名波はどうだった?」
「わ、私? 別にどうもしないよ? さっ! 結びに行こっか!」
自分の恋みくじをさっさと折りたたんで、結びつける場所へと向かう名波。
拓馬と隆は顔を見合わせると、自分たちのおみくじも折りたたんで名波のいるところへと向かう。
おみくじを結び終えた三人は、来たときにくぐった鳥居を目指して歩いた。
「隆と名波はなんてお願いした?」
「俺は今年も楽しい年になりますようにって願った」
「私は健康第一かな」
「普通だな。俺は素晴らしい黒タイツの人に出会えますようにって願った!」
「「へぇー」」
今年も通常営業の変態拓馬に冷たい視線を送る名波と隆であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とかあれば書いていただけると天まで登っていけそうです。
作中で年が明けました。
作中での時の流れの遅さにびっくりです。
では次回もお楽しみに!