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ナンパとブ男

いろいろとあったが、最終的には楽しんだから良しとした。

最後の最後に名波が『疲れたからロッジで先に帰る仕度する』と言い出したので、拓馬と隆がリフトに乗っては降りてきての繰り返しを超高速で3セットした。


「いやー楽しかったな!」

「あぁ。また来ような」

「もちろん! 俺たちの冬はこれからだ!」

「だな。さて名波はどこだ?」


夜の最終バスの時間帯間近ということで人がごった返しているロッジの中で、名波を探す二人。

帰りは拓馬の母が迎えに来てくれる予定なので、この人混みがいなくなるまでいることができるが、それでも人はまだ多い。


「お? あれじゃね?」

「・・・ナンパされてるのか?」


名波の座っているカウンター席の両サイドに知らないウェアを着ている二人の大学生かそれ以下のブサイクな男が座っていた。

どうやら口説かれているようで、困った様子の名波が見える。名波は拓馬と隆に気づいていないみたいで、手をからだの前に出してイヤイヤと振っている。

近くまで寄ると話し声が聞こえてきた。


「ねぇ。彼氏居ないんでしょ? だったら俺たちと遊ぼうよ」

「だから友達と来てるんですってば」

「友達なんかと遊ぶよりも俺たちと遊んだほうが楽しいぜ?」

「そうそう。これから夜の街にくり出そうよ!」

「えー、なんで話通じないのー・・・」


そんな困っている名波を見ながら拓馬と隆はニヤニヤしていた。

拓馬は『なんて古いナンパの仕方なんだ』とバカにしたような笑い。

隆は『久しぶりに名波の困ってる顔見たな』とS心をくすぐられた笑み。

しかし二人ともすぐに気持ちを入れ替えて、名波を助けに入る。


「もう、行きませんってば」

「こんなに可愛いんだからちょっとぐらい」

「ねぇキミ。俺たちとイイコトしない?」


名波の右横にいた男のさらに奥から拓馬が声をかけた。一瞬だけ名波が笑顔を見せるが、状況はまったく変わっていないのですぐに困った表情に戻る。


「君が一番ゲレンデで輝いていたよ。さっきから目をつけてたんだ」


100%の爽やか笑顔で拓馬の反対側から名波に話しかける隆。思わず笑いそうになった拓馬が顔を背けた。

こんな腐敗臭漂うセリフを言っても許されてしまうような気がするのは、隆がそれなりイケメンだからでしょう。もしくはゲレンデの『5割増し現象』のせいかもしれません。


「なんだお前ら?」

「残念だけど、この子は俺たちがキープしてたんだ。だから諦めてくれないかな?」

「なんだよ。友達って男かよ。もう行こうぜ」


そう言って(いさぎよ)く去っていくブ男達。

ブ男達が去ったのを見て、拓馬が大爆笑し始めた。


「アハハハハ!! 輝いてたってハハハハ!」

「・・・なんだよ」

「隆はナンパしないほうがいいぞ? アハハハ!」

「どうせ古い言い回しでしたよ! どうせナンパなんてしねぇからいいよ」

「アハハハ! 名波、よく笑い堪えれたな!」


そう言って名波の方を見ると、赤面した名波が隆をじっと見ていた。

拓馬が横からのぞき込んで、顔の前で手をぶんぶんと振ってみたが反応がない。


「おーい。名波さーん」

「えっ! 何っ!」

「・・・隆。お前は罪な男だよ」

「やめてくれ」

「あ、いや、ちょっと隆がカッコよく見えただけで、別に見とれてなんかないよっ?」

「はいアウトー」


名波の一言に、拓馬が親指を立てて速攻でアウト宣言を出した。

隣で頭を抱えながらまとめていた荷物を担ぐ隆。

その横で赤面した顔に気づかず、拓馬に食ってかかっている名波。

名波の心の中はどうなっているのやら。








「おつかれー」

「おつかれさん」

「「お邪魔しますー」」


三人はロッジのある駐車場まで迎えに来てくれた拓馬の母が運転する車に乗り込んだ。

車はワゴンなのでボードごと車の中に乗り込む。助手席に拓馬、後部座席に名波と隆が座る。

車内には俊哉が愛してやまないユリが所属するディスカッションの曲『レッツ ダンシング』が流れている。


「今日はわざわざお迎えまでしていただいて、ありがとうございます」

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。・・・へぇ。この子が名波ちゃんかい。可愛いじゃん」

「母さん。またおっさんみたいになってるぞ」

「いいじゃんか。あんたには父さんがいないからその分まで母さんが父さんの代わりをだな」

「はいはい。わかったわかった」

「もう素直じゃない子どもだねぇ。じゃあ出発しまーす」


動き出した車の中で、木下親子のやりとりを後部座席で見ていた名波が、隣の隆に話しかける。


「ねぇ隆。拓馬のお母さんっていつもあんな感じなの?」

「なんか失礼な言い方じゃね? なんか変だったか?」

「いや、わざわざこんな山中まで迎えに来てくれるなんて優しいなぁって思って。うちのお父さんとかお母さんとかに比べると全然違うなぁ」

「そりゃ他人の家だから違うのは当たり前だろ」

「そんなもんなのかなぁ?」

「うちは毎日拓馬が家のことしてくれてるからねぇ。だからこーゆーときじゃないと拓馬に母親らしいことをしてやれないのさ」


後部座席の二人の会話に入ってきた木下母。運転中なので前を向いたままです。


「俊哉があーやってアイドルの追っかけしてあんなに高いレベルの高校を受験してるのも、拓馬が家のことをやってくれてるからだよ」

「やめろよ。恥ずかしいだろ」


そんな母親の言葉を聞きながら助手席で照れる拓馬。

それを見て『なんていい親子なんだ』と思っている名波。

窓の外を見ながら、また三人でボードに行きたいと考えている隆。

それぞれが車の中でそんなことを考えながら車は緩やかに雪山を降りていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。


これでスノーボード編は終了です。

また日常をのんびりと書いていきます。


次回もお楽しみに!

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