初心者講習会 パート2
山頂についた三人は周りの人の邪魔にならないような場所でボードをカチャカチャを付け始める。といっても、装着に関してはすでにプロ級の名波と経験者の隆はワンタッチなのですぐに終わったため、実際はアナログ派の拓馬待ちである。
「あーもー引っかかった!」
「これだからアナログ派は・・・」
「アナログ派ってゆーな! もう先に行ってていいよ。追いつくからさ」
「はいよー」
久しぶりの装着に手間取っている拓馬を置いて、先に名波と隆は滑ることにした。
「うわー。ドキドキしてきたー」
「じゃあまずはとりあえず滑ってみろ」
「いきなりっ!?」
「無理だと思ったら踵側に力入れてお尻から転べ」
「えーそんなんで大丈夫なの?」
「たまには俺を信じてみろ」
うさんくさい隆に言われるがままにとりあえず滑ってみる名波。
両足をそろえて滑るなんて、家の近くの公園の雪山で、ソリに立って乗った記憶しかない。しかも今回は両足が固定されているためにその時の経験は全く役に立たない。
最初はゆっくりと緩やかな斜面を下っていたが、少しずつスピードが上がっていく。
「うわぁぁああ!」
「バカ! 怖いならコケろ!」
速度が上がってきて恐怖に叫びだす名波を見ていた隆は、名波に大声で指示をする。
その声を聞いたのかどうかわからないが、名波はお尻からではなく、顔面からバタリと倒れた。
隆が華麗に滑って近寄り、腕立ての要領でムクっと起き上がった名波に声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「・・・楽しいっ!」
「そ、そうか。最初にコケてそれなら大丈夫だな。次は踵側に力いれて軽く曲がってから転んでみろ」
「わかった!」
小さい子供のように笑顔で頷くと、立ち上がってゆっくりと滑っていった。
そしてある程度スピードが上がってきたところで、重心を後ろに倒しながら軽く曲がり、そのまま尻餅をついた。
「隆ー! できたよー!」
倒れたままの姿勢で隆のほうを振り向いて大きく手を振る名波。
「なかなか滑れてんじゃん」
「まぁ俺が教えてるからな」
装着し終わった拓馬も隆と合流して、名波の元へと滑り降りる。
倒れたままの名波は二人の滑りを見ていた。
「拓馬も隆もうまいねー」
「まぁな」
「私も早く滑れるようになりたいなー」
「ここからは勇気だけだからな」
「もう勇気だけなの? コツは?」
「勇気を振り絞ることだ」
反面教師の拓馬のは全然コツになってませんね。
「コツかぁ・・・。重心を真ん中に保って、下半身だけをクネクネさせる感じ? さっき曲がっただろ? それを尻餅つかずに立ったまま止まってみろ」
「はい。隆先生!」
拓馬の助言は何も無かったかのように、隆に言われたことを確実にこなしていく名波。
踵側に力を入れて立ったまま曲がって止まる。
今度は逆に爪先側に力を入れて曲がって止まる。
爪先側に力を入れて曲がったあと止まらずに、踵側に力を入れて曲がって止まる。
今度は逆。
そんな感じで山頂から麓まで2時間かけて、拓馬と隆で名波にじっくりと初心者講座をしながら降りた。
麓につく頃には、早いのが怖いために大きなカーブを描きながらではあるが、名波は滑れるようになっていた。
ちょうどいい時間ということもあり、ロッジにある食堂で昼ご飯を食べることにした。
拓馬はカレーライス。隆は味噌ラーメン。名波は醤油ラーメン。
空いている席に座って一息つく。
「私運動音痴なんがけど、意外と滑れるもんだね」
「スキーより簡単だからな」
「それでも名波はセンスあると思うよ。あとはスピードに慣れればサクサク滑れるぞ」
「隆も拓馬も早いもんねー。全然追いつけないもん。拓馬なんかジャンプとかしちゃうからビックリした」
「なんかコメントが年寄り臭くないか?」
「だってホントのことだもーん。隆はジャンプしないの?」
「ジャンプは怖くてできん」
「怖いの? なんか意外ー」
「隆はジャンプした勢いでバク宙みたいに一回転しそうになって背中から落ちてるもんな」
「あれがトラウマみたいな感じになっててジャンプはしたくない」
隆の意外なトラウマを聞いた名波は、隆が失敗した時の状況を自分に当てはめて考えてみた。想像して、とても痛そうに顔を歪めた。
「どうした? なんか変なもんでも入ってたか?」
「いや、隆が失敗したときのことを考えたら痛そうだなぁって思って・・・」
「まぁ雪山と事故は隣り合わせみたいなもんだからな。自分で危ないと思ったことはやらなきゃいい話だ」
「そうそう。俺はジャンプ怖くないからバンバンジャンプしてるってわけ」
「じゃあ私もジャンプできるようになって隆のこと追い抜いてやる」
「あんまり無理すんなよ」
そんなことを話しながら三人は昼ご飯を食べた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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少しでもスノーボードに興味を持ってもらえたら幸いです。
次回もお楽しみに!