初心者講習会
目の前には大きな雪山がいくつかある。
その急な斜面に沿って2人乗りと4人乗りのリフトがそれぞれ2本ずつあり、全てが違う山の上の方へと繋がっている。
ロープウェイのようなゴンドラもあり、その行く先は一番高い山の山頂へと続いているが、ゲレンデのロッジのある位置からは終点が見えなかった。
「いやー来ちゃいましたな」
「あぁ。ワクワクが止まらねぇな」
上下黒のウェアに身を包み、黒いニット帽に赤いゴーグルをしている全身黒ずくめの拓馬と、下が白、上が黒のウェアに、黒いニット帽とシルバーのゴーグルを装着している隆が並んで立っている。
名波のボードデビューを記念して、今回のチケット代は二人が出してあげた。もちろん一日券です。
朝早く出発したので、まだ午前10時である。
平日の年末ということもあって空いているかと思ったが、早い時間にも関わらずそれなりに人が散らばっていた。
準備OK! チケットOK! ボードにワックスOK! 全てOK!!
・・・なのだが、肝心の名波が遅れている。
「あいつは何してんだ?」
「待たせるのが好きなんじゃね? クリスマスの時も待たせてたし」
「お待たせー!」
ボードをズルズルと引きずった名波が現れた。
名波は上下薄いピンクのウェアに白いニット帽と白いゴーグルを身に付けている。
まるでゲレンデに現れた天使ですね。
しかしそんな天使を二人はハエたたきで撃ち落とす。
「「おせーよ」」
「ごめんごめん。トイレ行ってた」
「そーゆーのは言ってから行け。こんだけ広いんだから迷子になっても知らないからな」
「はーい」
まるで遠足に来た小学生のようなやりとりをする隆と名波。
「じゃあ早速滑るか!」
「どうやって滑ればいいの?」
「あ、そっか。そこから説明しないといけないのか」
名波が初心者であることを今さらのように思い出した拓馬と隆。
とりあえず平たいロッジ前で名波にボードを片足だけ付けさせる。
名波と隆のボードはワンタッチ式の止め具で、拓馬だけ自分でカチカチ着ける手動の止め具です。
昨日、宿題としてスムーズにボードに足を装着する練習を与えていたので、ここまでは順調である。
そしてもう片方の足も付けようとしていた名波を隆が制止する。
「なんで両足つけないの?」
「歩けねぇだろ。ここでは歩き方だけ教えるからな。滑り方は上で教えるよ」
「そっか」
あっさり納得をし、ボードを付けた状態での歩き方をレクチャーする。
「まず・・・なんて言えばいいんだ? 横向きながらキックボード乗る感じで漕いでみ」
「うわぁ、ざっくりー」
あまりにもざっくりとした教え方に、拓馬もちょいちょいアドバイスをする。
そのおかげで、名波は勢いをつけて滑る程度ならできるようになった。
「うほーい!」
「おい。そろそろ上行くぞ」
「どれ行くの?」
「最初はゴンドラ」
「えー! いきなりあんなに高いところ行くのー!? 無理だって!」
「大丈夫だって。上の方って言ったって結構なだらかな斜面が多いから初心者向けだよ」
「それに山の上のほうも雲かかってないっぽいから天気は良さそうだし問題ない。それに初めてリフト乗って、転んでリフト止められてもこっちが恥ずかしいからな」
「そうなの? 信じるからね?」
「おう! 隆はともかく俺は信じていいぞ!」
「・・・俺も信じろよ」
そんな二人に言われるがままに、ボードを外してゴンドラへと乗り込む。
ゴンドラに乗るときには、スキーもボードも外して乗り込む。スキーはドアの側面に差す場所が設置されているのだが、ボードは差すところが無いので中に持ち込んで持っていきます。
「「うぉ~ぅ」」
「・・・何してんだ?」
ゴンドラが発進してすぐに、進行方向を向いて座っている拓馬と名波が変な声を出した。
それを進行方向に背中を向けて座っている隆が気持ち悪そうに見た。
「いや、普通これやるでしょ」
「やるやるー」
「ん? だから何?」
「ほら、ゴンドラが加速する時って、ぐぉーんって感じでなるじゃん。その時に声出ちゃうでしょ」
「普通そうじゃないの? 隆はなんでやらないの?」
「なんでって言われても・・・。拓馬だってそんなのやってるとこ初めて見たぞ?」
「だって隆とゴンドラ乗るの初めてじゃん。いつも脱ぐのめんどくさいからってリフト乗り継いで上まで行くじゃん」
「言われてみればそうだな」
「まさか隆がやらないとは思わなかった」
「みんなやるもんなのか?」
「少なくとも木下家はやるな」
「うちもやるから2対1で勝ちだねー」
「「いぇーい!」」
ハイタッチを交わして盛り上がる拓馬と名波を向かいの席で眺めていた。
窓の外に目をやるととても綺麗な雪景色が広がっていた。
今日は絶好のスノーボード日和である。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
感想とかあれば書いていただけると空を飛べるかもしれません。
スノーボードの知識に関して「え?違くね?」ということがあれば教えてくださいませ。
早ければ早いだけ僕が恥をかかずにすみます。
次回もお楽しみに!