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拓馬の冬休み

午前9時半。


拓馬は自分の部屋で、勉強机代わりのこたつに潜り込んで宿題のプリントをこなしていた。

拓馬の冬休みは、宿題を終わらせることから始まる。全ては宿題が片付いてからが本番である。

なぜならば、今までに貯めに貯めてきたお小遣いを使って、この冬休みをスノーボード三昧で過ごすためだ。

そのためにも何よりも先に宿題を終わらせておく必要があるのだ。

必死になって宿題を終わらせようとして、朝からこたつと向き合ってプリントをこなしていく。

宿題といっても、年越しを見込んで夏休みよりも少ない量となっているため、一日真剣に取り組めば終わりそうな量だった。

拓馬は一番少ない数学のプリントの3枚をサクサクと片付けると、次の国語のプリントに取り掛かろうとした。

その時、後ろのドアがノックされた音を聞いた。


「はーい?」

「あ、拓馬? 今ちょっといい?」


ドアを開けてのぞき込んできたのは、拓馬の姉である芳恵(よしえ)だった。

芳恵に呼ばれる時は、だいたいがめんどくさい要件なので、一瞬で心の準備を済ませてから声をかけた。


「何かあった?」

「いやぁ、実は足のやつ買い忘れちゃってさ。悪いんだけど買ってきてくれない?」


芳恵の言う『足のやつ』とは、足に貼るタイプの足用カイロのことだ。

冷え性の芳恵にとっては最高のパートナーとなっている。


「えー。自分で行けよなー」

「無理無理ー。だってこれから化粧とかお風呂とか入らないといけないし」

「はぁ? じゃあ行く前に買ってから行けばいいじゃん」

「えー。そんなこと言わないで買ってきてよー。お釣りあげるからさー」


そう言うと、財布から千円札を取り出してヒラヒラと拓馬の目の前で振る。

お金をそんなふうに目の前でユラユラされると、拓馬の硬かったはずの城壁も、簡単にわらの家へと変わってしまう。

こたつから出てドアまで歩いていき、揺れている千円札を掴んだ。


「わかったよ。そこまで言われたら買いにいかない訳にはいかないな」

「さすが私の弟よ!」

「その代わりちゃんと服着ろよ。パンツ一丁でフラついてたら風邪ひくぞ」


ドアの向こうでは、色気のないボクサータイプのパンツ一丁で顔を覗かせている芳恵がいた。気づかれた芳恵は、バレたかと言わんばかりに、ダッシュで風呂のある洗面所へと消えていった。

もちろん上は何も着ていなかったが、拓馬は黒タイツにしか興奮しないド変態なので、姉の裸体を見てもなんとも思わない。それ以前に家族のからだなんて小さい頃から見てきているので、なんとも思わないのが普通である。


「さてと。じゃあ買いに行ってくるかな」


寒くないように厚手のダウンを着て玄関へと向かう。


「拓馬」


ふいに後ろから話しかけられた。

もちろん残りは弟の俊哉(としや)しかいない。振り返ると予想通り俊哉が立っていた。

ストーブが点いている部屋の中でも寒いのか、トレーナーの上にパーカーを着ている。


「なした?」

「どっか行くの?」

「姉ちゃんのカイロ買いにスーパーまで行ってくるけど。なんか買うもんある?」

「だったらお金あげるからチョコ買ってきて」

「何チョコ?」

「今日から発売のユリちゃんの特典が付いてくるチョコ」

「あれって何入ってるかわかんないやつだろ?」

「だから箱買いしてきて」


そう言って芳恵同様千円札を二枚差し出す俊哉。

はいはい、と千円札を受け取ると玄関を出てスーパーへと向かった。




カイロとチョコを買って帰ってきて芳恵と俊哉に渡すと、短いお礼と共に品だけを奪い去ってそれぞれの部屋に戻っていった。

いつも通りの光景を見届けて、ハァと短い溜息をついて、拓馬も勉強を再開するために部屋へと戻った。

駄賃としてもらったお釣りを財布にしまって、こたつに潜り込んでスイッチを入れた。

そしてまた宿題を終わらせるための勉学に励んだ。


昼過ぎに、拓馬お手製の昼ごチャーハンを俊哉と食べた以外は、ガッツリと勉学に励んだ。

夕方になり宿題も残すところ英語のプリント一枚だけとなった。

頑張れば夜ごはんまでに終わらせることが出来るのだが、冬休みの拓馬には家庭内での仕事があった。

それは夜ごはん当番である。と言ってもほぼ母親が居ない日は、拓馬が作っているのであまり普段と変わらないが、冬休みは買出しも拓馬の仕事に入っていた。

そして今日は、スーパーのタイムセールがあるのだ。

それを狙って母親から買うように頼まれたものがいくつかあるので、拓馬は夜ごはんの買出しに出かけることにした。

本日二回目のダウンを着て部屋を出てると、ドアが閉まっている俊哉の部屋が目に入った。


「俊哉ー。買い物行かなーい?」


部屋で閉じこもって勉強しているはずの俊哉に声をかける。

重いものもいくつか買うので、荷物持ちに連れていこうと考えたのだ。


「行かなーい」


予想通りの返事が聞こえてきた。

この引きこもりめ、と心の中で悪態をつくと、母親が置いていったメモと財布に入った五千円を持って、本日二回目となるスーパーへと拓馬は向かった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると大変喜びます。


今回からしばらくは冬休み編に突入です。

お付き合いください。


次回もお楽しみに!

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