三人のクリスマス
50話ということで長くなっております。
ご了承ください。
「お待たせー」
「「おせーよ」」
待ち合わせの2時より5分過ぎた頃、パタパタと走りよってきた名波のスローボールに対して、剛速球で文句を返す拓馬と隆。
「ちょっと遅れただけじゃん!」
「お前が待ち合わせ時間決めたくせに遅れるとはどういうことだ」
「女の子の準備は時間がかかるんですー」
「おぉー。気合入ってるな」
「フフーン」
拓馬に言われて胸を張る名波。
今日の名波は髪型にクネクネが加わっている。コテを使って巻いているのだ。
「なんかチャラいな」
「「!?」」
隆が名波の頭を見て呟いた。その反応に驚いた拓馬と名波は同時に隆を見た。
隆はオシャレというものが理解できていなかった。
こーゆー日だからこそ気合を入れちゃったりするのに、『クネクネして海草みたい』とか思っている隆。
拓馬と名波が顔を寄せ合って隆のことをコソコソと話す。
「私、ダメ。隆にオシャレのことを言っても理解される気がしない」
「俺も同じこと思った。きっと一番好きな服装はパジャマです、とか言っちゃうタイプだな」
「おい、なにヒソヒソ話してるんだよ。早く行くぞ」
そう言って巨大クリスマスツリーがある場所へと歩きだした。
その隆に肩をすくめてからついて行く拓馬と名波。
「うはー!」
「わぁー!」
「おぉー!」
三人はそれぞれ感嘆の声を上げた。
ビル3階分ぐらいはあろう白いクリスマスツリーはとても大きかった。
とりあえず口を開けててっぺんにある星を並んで見ていた。
まだ暗くなっていないので、周りにはまだちらほらとしか人はおらず、見上げているのは三人だけだった。
名波がてっぺんを見ながら、同じくてっぺんを見ている隆に聞いた。
「きっと暗くなったら電飾が点くんだろうねー」
「そうだなー」
「待ってみるー?」
「あと何時間ぐらいー?」
「3時間ぐらいー」
「却下だなー」
名波からの提案は隆によってあっさり却下された。
名波も賛成されるとは思っていないので、そのままてっぺんをボケーっと見ている。
二人同様、てっぺんを見ていた拓馬が聞く。
「このあとどうするー?」
「このあとどうしようかー?」
「このあとかー・・・」
実はこの三人、まったくの無計画で今日を迎えたのである。
待ち合わせ時間だけ決めて、あとはその場のノリと勢いで決めることにしたのだ。
「なんか行きたいところとかあるかー?」
「私、ケーキ食べたいなー」
「おー。クリスマスって感じがしていいなー」
「あー首疲れた・・・デカイやつか?」
「小さいやつたくさん食べたーい」
「じゃあデパ地下でも行ってケーキ探しするか?」
「買うのはいいけど、どこで食べるんだ?ー」
「俺ん家で良ければ来るか?」
「隆ん家大丈夫なのかー?」
「なんかみんな出かけるんだってさ。だから今誰もいないぞ」
隆はまだ口を開けて上を見上げている二人の頭をバシバシと叩き、天高く登っていた意識を地上へと戻した。
そして改めて家の件を話すと二人とも異論は無く、デパ地下でケーキやら食材やらを買って隆の家へと向かった。
隆の家に着くなり、買ってきた食材で夜ごはんを作り始める三人。
手際よく調理していく拓馬と名波。
作っているのは、あさりのパスタとポテトサラダと買ってきた照り焼きチキン。
もちろん照り焼きチキンを温める係に立候補したのは隆でした。
ガシャガシャとフライパンを揺すりながらパスタとあさりを絡めている拓馬。そんな姿を見れば、誰でもイチコロのような気がします。
ポテトサラダを作っているのは名波。茹でたじゃがいもをエッサホイサと潰して、マヨネーズと混ぜたり塩コショウを振って味を整えています。
隆はレンジを見ています。
「よし。こんなもんかな」
「私も出来たー」
チン
「こっちも温まったぞ」
素晴らしいタイミングで全員が調理終了しました。
綺麗に皿に盛り付けられた夕食をワイワイと楽しく食べ終わり、待ちに待ったケーキの番です。
拓馬はガトーショコラ。隆はモンブラン。名波はフロマージュと呼ばれる白いチーズケーキ。
全員が一口目を食べたのを確認してから隆が口を開いた。
「よし。プレゼント交換するか」
「おっ! いいねぇ」
「待ってました!」
「やっぱり隆も楽しみだったんだな」
「何が?」
「プレゼント」
拓馬にそう言われ、思わず顔を赤くする隆。そんな隆を見て名波がニヤーっと笑った。
「そうだよ。楽しみでした! これでいいか!」
「素直でよろしい!」
「ねぇ早く交換しようよ!」
急かす名波につられて、いそいそと自分のプレゼントを用意する拓馬と隆。
それぞれの用意したプレゼントと相手のプレゼントを交換して、開封式が始まった。
「じゃあ俺から開けるー。よいしょっと・・・うわー! 何これ! 超カッケー!!」
「それは俺からだ」
拓馬が最初に開けたのは、隆が買ったフライパンだった。
普通のフライパンとは見た目が大きく異なり、星の形をしており、何故か色が黒と赤の縞模様だった。常人では考えられないチョイスだった。
「超大事にするわ! さて名波からはなにかなー。・・・アハハハハ!」
「おい、何入ってたんだよ」
「エヘヘヘ」
中をのぞき込んで思わず笑い出す拓馬。中身がわからないので催促する隆。そして中身がわかっているので恥ずかしそうに照れる名波。
中から出てきたのは、サメの絵柄の鍋つかみだった。二人揃って台所回りのプレゼントを渡されたら、そりゃもう笑うしかないですね。
「隆も名波もどんなイメージなんだよー」
口ではそう言いながらも、とても嬉しそうに笑ってお礼を言っている。
次に開封するのは名波になった。
「さて私のプレゼントは何かなー。・・・ん? なにこれ?」
「あ、それ俺のだ」
名波が取り出したのは、拓馬からのプレゼントである黒タイツだった。
「うわぁ・・・」
「どうだ? 今履いてみてもいいぞ?」
「遠慮します」
「俺が選んだからスゲーぞ」
「もう変態拓馬らしいチョイスですねー」
「これは酷いな」
「そういう隆のはどうなのかなぁ・・・。ってこっちも酷いなぁ・・・」
中から出てきたのは、瓢箪の形をした入れ物だった。修行僧とか持っていそうなアレです。
「ちょっと何これぇ」
「俺の中での名波のイメージは狸だからな。ホントは狸のぬいぐるみを買ってやろうかと思ったんだけど、こっちの方が面白いと思ったから」
「もうちょっとは真剣に選んでよ! でもありがたくいただきます」
ペコリと頭を下げてお礼を言う名波。
そして隆の番が来た。
「さてついに俺の番だなー。・・・おっ? まさかの食べ物かよ」
「それ俺からー」
取り出したのは、瓶に入ったわさびの漬物だった。隆がわさび好きなのを知っていた拓馬からのプレゼントです。
「ホントはわさビーフにしようかどうか迷ったんだけど、結局ご飯のお供を選んじゃいました」
「わさビーフとか自分で買えるわ! 次は名波のだな。・・・ん? ダルマ?」
中から出てきたのは、赤いダルマのキーホルダーでした。
「なんでダルマ?」
「それよく見てよ。まだ目が入ってないでしょ? 自分で目標を決めたときに片目を入れて、叶ったらもう片方を入れるといいんだってー」
「へー。なんか選挙の時ぐらいしかダルマって見ないよなー」
「そうだな。まぁ目標が出来たら片目入れるわ」
「楽しみにしてるね」
こうしてケーキを食べるのを中断して行われたプレゼント交換会が幕を閉じた。
そのままケーキを食べながら反省会が行われたが、一番酷いプレゼントにノミネートされたのは、言うまでもなく拓馬の黒タイツだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
さて記念すべき50話となりました。
一応折り返し地点ということで長くなっちゃいました。
次回からまたのんびりと書いていきます。
今後もよろしくお願いいたします。
次回もお楽しみに!