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イタズラの代償

名波を拓馬と持ち上げて走った翌朝。

隆は両腕筋肉痛という緊急事態に陥っていた。二の腕はもちろん、手首から肘にかけての前腕も痛かった。

箸をもつのが痛い。

カバンを持つために腕を曲げ伸ばしするときの動作が痛い。

よっこらせと椅子に座るときにする腕の動作が痛い。

それよりなにより一番辛かったのが、歯磨きだ。

あの時間だけは本当に苦痛だった。我が家にお口クチュクチュモンダミンが無いことをあんなに悔しく思った日はなかった。

教室に入るなり、隆が自分の席で大人しく座っていたら、拓馬の能天気な声が聞こえてきた。


「隆くーん! おはようございますー!」


拓馬は元気よく挨拶すると、駆け寄ってきた勢いそのままに隆に飛びつく。

隆は飛びついてきた拓馬を条件反射のごとく横に叩き落とす。

後ろの机を巻き込んで派手に倒れる拓馬。叩いた拍子に筋肉痛で苦痛の表情を浮かべる隆。


「何で叩くんだよ。危ないじゃないか」

「お前の頭の中だけで十分犯罪級なのに、行動まで危なくなるじゃねぇよ。こちとら筋肉痛と朝からタイマン張ってんだ」

「筋肉痛?」

「昨日黒木担いで走ったじゃん。あれが両腕に響いてて痛いんだ・・・」


やっと痛みが引いてきたらしく、深呼吸をして呼吸を整える隆。


「そんなに痛いのか?」


自分の席に座って軽い口調でそう言うと、隆の腕に触ろうと手を伸ばす。しかし触る前に隆の右手にその手を払われてしまう。

その瞬間、再び激痛が隆の右手に走る。

痛がっている隆を見て笑いながら拓馬が一言。


「俺の右手が疼いているー! って感じだな」

「疼いてるんじゃなくて暴れてるんだよ! 大暴走だよ! ・・・ってお前は筋肉痛とかになってないのか?」

「だって俺は鍛えてるもん。あのくらいじゃへこたれないぜ!」

「それもそうか」


そう言って力こぶを作るポーズをしてみせる拓馬。

175CMぐらいと同じような身長の二人は、隆が顔は整っているが草食系男子さながらのヒョロ男であるのに対し、拓馬は笑顔に定評がありそうな痩せマッチョな体型をしている。

二人とも正反対な外見だが、黙って心を無にしていればそれなりにモテるはずだ。しかしいかんせん性格がアレなのでモテ路線からは外れていた。


「それでもさすがに最後コケた時の衝撃は痛かったかな」

「あれは痛かったな。黒木のやつが両足使ってまで止めに来るとは思わなかった」

「俺なんか膝と肩に青たん出来てるもん」

「そういう意味では俺は無傷だな。そっちの痛みはすぐに引いたし」

「代わりに筋肉痛が残ったと」

「そういうこと」


結果痛み分けということだ。

その時、二人の前に昨日の出来事で不服全開の美少女が現れた。


「よう。そんなムスっとした顔でどうしたんだよ。せっかくの美少女の称号が逃げてくぞ」

「今日も安定の黒タイツだな。そんなに怒るなって。昨日も散々謝ったじゃん」


二人の挨拶が聞こえているのかどうかわからないほど、ムスーっと頬を膨らませて『私は怒っています!』という雰囲気を全開にしている名波。それもまた可愛いのは内緒。

その二人に返事の代わりに自分の左手を見せる。そしてその左手に巻かれていた包帯をクルクルとほどいてみせた。


「うわぁ・・・」

「マジでか・・・」


二人が引いているのも無理はない。

名波の手には包帯が巻かれていた。厚さから見てギプスが入っていないのは一目瞭然で捻挫とか骨折でないことはわかる。

問題はその包帯の中身だった。

名波のキメ細やかで綺麗だった手には大小様々な傷が付いていた。中には正方形の絆創膏が貼ってある部分もあった。

この傷はもちろん転んだ時にできたもので、からだを庇うために左手を出したところ、傷を左手が全部引き受けてしまった形になった。不幸中の幸いだが、骨折とか大きなケガはなく、ケガらしいケガはこの左手の傷だけだっだ。


「これどうしてくれるのよ」


真剣に怒っている様子の名波。そんな表情を見せられた二人は互いの顔を見合ってアイコンタクトをとる。


「悪かった。これホントに俺たちの責任だ」

「そうだな。今度からは気をつけるよ」

「わかった。許してあげるわ。・・・なんて言うと思ったら大間違いよ!」


フン、と鼻で笑い、不敵な笑みを浮かべて二人を見下ろす名波。


「だいたいね、いつも私のことバカにしすぎなのよ! 今日は今までの分も償ってもらうからね! 精神的ダメージと肉体的ダメージを負ってるんだから、断ることはできないからね!」


心底嫌そうな顔を浮かべる隆と、この状況から少しでも逃避するために名波の黒タイツを見て精神統一を図っている拓馬。そして今日こそは仕返しの大チャンスとばかりに大きな態度を取っている名波。


「で、何をしたらいいんだ?」

「今日一日、私の言うことを聞くっていうのはどう?」


隆の質問に名波が答える。


「一部の人はご褒美と思うかもしれないが、俺は嫌だ」

「ダメダメ。もうお願いは始まってるのよ? 断る権利はありませーん」


楽しそうに笑っている名波。いつもの立場と逆転している状況が楽しくない隆。まだ逃避から戻って来ない拓馬。


「お前はいつまで見てるんだ!」

「いでっ!」


名波の右手に頭を叩かれて戻ってくる拓馬。



さてはて、今日一日どんな一日になるのやら。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると発狂します。


筋肉痛の恐怖。


では次回もお楽しみに!

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