クリスマスイブイブ
「二人ともあさってのクリスマスの予定って無いよね?」
さんざん雪合戦をしたために、日はすっかり沈んでしまい、辺りは街灯の明かりでボンヤリと照らされていた。
雪のせいでベチャベチャになった手袋をぶんぶんと振り回して水分を飛ばしながら歩く名波が、横を並んで歩いている二人に聞いた。
「どうして予定が何も無いって決めつけた上で聞いてくるんですかー?」
「じゃあ予定あるの?」
「もちろん無い!」
「やっぱり無いんじゃん」
「別に無くたっていいだろ。クリスマスなんてどこに行っても混んでるだけだ」
隆の地味に最低な発言が飛び出した。それに続いて拓馬も援護射撃を放つ。
「そうだそうだ! 本当のクリスマスは教会に行ってイエス様にお祈りをする行事のはずだ!」
「その心は?」
「クリスマスを餌にしたような商業戦略に俺は引っかからないぞ!」
「何言ってるの?」
「俺にもわからん」
名波に続いて隆もお手上げだった。拓馬は商業戦略云々と言っているが、『色々とセールとかやって安くなるんだからそれはそれで良いことなのでは?』と隆は考えたが、変に反論を言われても面倒なのであえて口を閉ざしておく。
「で、クリスマスなんかあるのか?」
「なんかあるってゆーか、クリスマスなんかやりたいなーって思ったの」
「なんか? クリスマスパーティ的な?」
「そうそう。せっかくだし三人でワァーっとやりたいなぁって思ったんだけど・・・」
「でもお前んちってなんかクリスマスは家族でーって感じがするんだけど問題無いのか?」
「うちはクリスマスイブに色々やるからクリスマスは何もないよー。隆の家こそ何もやらないの?」
「うーん・・・うちは両親がクリスマスデートで家にいないし、希と望もあんなだから多分何もやらないはずだ」
「じゃあ問題無いじゃん! じゃあクリスマスの日なんだけど」
「ちょっと待ったー!!」
二人でクリスマスの予定を立てようとしていたところに拓馬が割って入った。
「なんだよ。クリスマス商戦に反対だから参加しないんじゃないのかよ」
「ちょっと待って! だからちょっと待って!」
「もう待ってるよ? 大丈夫?」
「俺は正常だ。だから俺だけ仲間ハズレにしないでください!」
「結局さっき言ってたことは適当だったのかよ」
拓馬は二人の前に回り込んで土下座を披露した。それはとてもとても綺麗な土下座でした。教科書に載ってもいいくらいの綺麗な土下座でした。
「ちょっと、土下座はやめてよ。私も前に隆にさせられたけど、罪悪感がハンパないよ?」
「あれはお前が悪いんだろ」
「だから謝ったじゃん! 隆って意外と根に持つタイプだよねー」
「お前に言われたくないわ」
「もうめんどくさいからケンカすんなよー」
なぜか喧嘩腰になった二人の間に割って入ると、話題を元に戻した。
拓馬も参加することが決まり、改めて三人でクリスマスの予定を立て始める。
「拓馬の家は何もしないの?」
「あぁー姉ちゃんはバイトだろうし、俊哉は受験勉強だから何もやらないから暇人です!」
「じゃあ問題ないねー」
「で、どこでやるんだ?」
「名波の家は双子も両親もいるだろうし、俺の家も希と望がいるから居づらいし、拓馬の家も俊哉の邪魔するわけにはいかないし・・・」
「せっかくなんだしどっか行こうよ!」
「だから人が多いって。混んでるぞー?」
「あえて人ごみに突っ込むのはダメなの?」
名波は首をかしげて隆に聞く。
そんな名波に言われても、混んでるところに出向くという発想が理解出来ない隆は思わず顔を背けて考え込む。
隆としては、拓馬と名波と三人でクリスマスを過ごしたいとは思っている。しかし隆は人ごみが苦手なのだ。というよりも若干のトラウマなのだ。
小さい頃に家族で出かけて、人ごみの中で迷子になった経験があるのだが、それのおかげで人ごみで人の流れにうまく乗ることができずにうまく歩けないのである。
なるべく人ごみを避けて人生を送ってきたが、今回はそうはいかない状況らしいと悟っていた。
「わかった。人ごみに突っ込んでやろうじゃないか!」
「さすが隆さん! 大好き!」
「気軽に好きとかゆーなっ!」
「そうだぞ! 俺にも言ってくれ!」
「拓馬も大好きー!」
「うおぉぉぉおおお!」
「・・・お前ら何してんの?」
せっかく覚悟を決めた隆をほったらかしにして二人で盛り上がっている。
「で、どこ行くんだよ」
「うーん・・・いいとこあるかなぁ?」
「ほら、あの巨大クリスマスツリーとかあるじゃん。あそこは?」
「あんなのクリスマスまでに行けばいつでも見れるだろ」
「・・・隆。本気で言ってるのか?」
「は?」
拓馬が『さっきのって冗談じゃなかったの?』みたいな顔をして聞いてくる。
「いくらいつでも見れるからってクリスマスに見るのと、その前に見ちゃうのとでは結構雰囲気が違うよ?」
「だよなー。じゃあそこ行こうぜ」
「うん! わぁー楽しみだなぁ!」
「おい、少しは俺の意見も・・・」
「あ、プレゼント交換とかもしようよ!」
「いいねぇ! じゃあ早速明日買いに行こっと」
「でもクリスマスイブにクリスマスプレゼントを買いに行くってなんか変な感じだよね」
「「アハハハハ!」」
「・・・・・・」
クリスマスの予定をサクサクと決めていってしまう二人に口を挟めるはずも無く、隆はただ黙って横を歩いていた。
二人の話を聞く限りだと、クリスマスプレゼントを用意しておかなければならないことがわかったが、それ以外はさっぱりだ。
『あとで拓馬にメールで聞いておこう』
そう考えた隆はオレンジ色の街灯が照らしている線路沿いの道を前を見ながら歩いた。
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