なかなおり
「拓馬!」
「あ、相沢ー!」
「隆! 遅いっ!」
「はぁ? なんでお前にそんなこと言われないと・・・」
「うるさい! そんなことよりも黒木に言わなきゃいけないことがあるんじゃないのか!?」
隆が合流したときには、拓馬は暴走していた。
普段怒らない拓馬は、初めてのブチ切れ状態に自分でも収まりがつかなくなっていた。
もちろん隆もこんな拓馬を見るのが初めてなので、どうしていいのかわからなかった。
というわけで、
「落ち着けっ」
「いだっ!」
とりあえず一発ゲンコツをかましてやりました。
すると、なんということでしょう。みるみるうちに拓馬くんは正気になりました。
しかし暴走していたころの記憶がハッキリと残っているので、恥ずかしそうに雪の上にうなだれています。
「うわぁ・・・俺何やってんだ・・・めっちゃハズい・・・」
「まぁ気にすんなよ。次から気を付けたらいいさ」
「うん。私たち友達じゃん。まだまだ挽回できるよ」
隆と名波に励まされて少し元気になった拓馬。そしてそれと同時に大事なことを思い出した。
「って違うよ! 俺じゃないよ! 隆と黒木が仲直りしないといけないんだよ!」
ハッとして顔を見合わせる隆と名波。照れくさそうに顔を赤らめて顔を背ける。
そして申し訳なさそうにまた顔を見合わせると名波が口を開いた。
「あの・・・さっきはゴメンね」
「いや、俺の方こそ変なこと言ってすまなかった」
二人のやりとりを見ながら、うんうんと頷く拓馬。
色々と謝り合いの応酬が続き、隆と名波のやりとりは今日の帰り道の話に戻った。
「でさ、そろそろ私も隆と拓馬って呼んでもいい?」
「なんでそんなに名前で呼びたいんだよ」
「だって二人を見てるとなんか友達ーって感じがして羨ましいんだもん」
「羨ましいってお前・・・」
「ダメー?」
可愛い友達に上目遣いで言われて断る隆ではない。
今までの隆だったら『じゃあ苗字に「さん」をつけて1年間呼び続けたら許可してやる』とか言っていたであろう。
しかし最初の頃の隆とは違って、大切な友達を谷底に突き落として楽しむような隆はもういないのだ。拓馬には容赦しないけど。
隆は変わったのだ。
「わかったよ。好きに呼べばいいだろ。でも俺は黒木のままだからな」
「えー! 名波って呼んでよ!」
「ムリムリ。勘弁してくれ」
「えーなんか不公平じゃんよー」
「名波。隆は照れてるんだって言ったじゃん」
「え? これ照れてるの?」
「何言ってんだ。照れてるわけねぇだろ」
「へぇー・・・」
隆はそう言っているが、目の前の二人はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「名波。俺は今度から名波って呼ぶからな」
「さすが拓馬! よろしくねー」
「ぐぬぬぬ」
二人の憎たらしい会話を見ていた隆は悔しそうに唸っていた。
『自分は恥ずかしくてそんなこと言えないのにぃぃ!!』というような顔をしていた。
そんな隆の顔を見た拓馬は名波の顔を見て、小さく肩をすくめる。
「隆。もう少し素直になれよ」
「そうだよ。隆。私たち友達じゃん」
そんな二人に言われて少しだけ自分を見直す隆。
そして・・・
「・・・名波。よろしくな」
小さい声だったが二人には十分な声量だったらしく、顔を見合わせたあと飛び跳ねて喜んだ。
「そ、そこまで喜ぶことねぇだろ!」
「だってやっと隆が私のこと名波って呼んだんだよ? 喜ばないわけにはいかないよ! アハハ」
「最初から素直になってればケンカしないでも済んだのになー。アハハ」
「全く・・・喜びすぎだろ」
喜びすぎな拓馬と名波に呆れて、今度は隆が肩をすくめた。
そして大事なことを思い出した。
「そういえばくろ・・・名波。なんであんなこと言ったんだよ」
「あんなことって?」
「ほら、そのー・・・好きな人がいるーって言ってたじゃねぇか」
「うん。言ったよ」
「軽いな!」
「名波は好きな人いるのか?」
途中拓馬のツッコミが入ったが、まったく気にせずに隆は聞いた。
名波はいつも通りの可愛い顔で答えた。
「あれ? 言ったよね? 隆と拓馬が好きだよって」
「あれ、本気だったのか・・・」
「うわぁ・・・俺どうしたらいいんだ? 隆と殴り合いでもしたほうがいいのか?」
「いやいや、片方だけとか選べないから殴り合いとかしないでください」
「えーと、どういうことなの?」
「うーん・・・ん?」
名波の遠まわしな告白がよくわからない拓馬と隆。
名波も名波でよくわかっていないらしく、首をかしげている。
「私もよくわかんないんだけど、二人のこと好きだよ」
「それは恋愛対象としてってことか?」
隆が確認する。
「そこが微妙なんだよねー。隆と二人で居る時も楽しいけど、拓馬と二人で居る時も楽しいんだよね。でも三人でいるときが一番楽しい!」
「つまり俺たち二人が一緒の時が一番好きって感じ?」
「お前、曖昧すぎるだろ」
「でもそんな感じかなー。だから二人が好き。二人とも好き!」
名波の熱烈な告白も、地球に届く太陽の熱ぐらい届かなかったらしく、ピンと来てない様子で拓馬と隆は口をポカーンと開けていた。
そして互いの顔を見合わせると思わず吹き出した。そのまま大爆笑へと発展する。
「「アッハハハハハハ!!」」
「ちょっと! なんで笑うのさ!」
「お前は子どもか! アハハハ!」
「そうそう! どっちも好きとかマジでありえねぇ! アハハハ!」
「そこまで笑うこと無いじゃん! どっちも好きなんだから仕方ないじゃん!」
「アハハ! もう一妻多夫制の国で暮らしてこい!」
「そんな国あるのかよ! アハハ!」
「もうバカにしてー!」
笑いが止まらない二人に名波は、そこら辺に山ほどある雪を一掴みして雪玉を二つ作り、一つずつ拓馬と隆の顔めがけて投げた。
「うわっ! 冷てっ!」
「やったなコノヤロー!」
仕返しとばかりに拓馬と隆チームからの雪玉が飛んでくる。名波の運動神経で避けられるはずも無くボコスカとヒットする。
そして拓馬が名波チームになったり、名波が隆と組んだりして三人は日が暮れるまで雪合戦をして遊びましたとさ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変感謝感激します。
世間ではバレンタインムードが漂っていますが、作品内ではクリスマス目前となっております。
短編でバレンタインの話でも書こうかと検討中です。
次回もお楽しみに!