明日から冬休み
全校生徒に向けてとんでも発言をかました名波は、意気揚々と帰り道を歩いていた。
そんな上機嫌の名波の両側を歩いているのは拓馬と隆。
名波の発言に度肝を抜かされていた元ファンクラブの3人に簡単なお礼だけを言って、名波と拓馬と隆は放送室から逃げるように帰ってきた。
放送室を出てからというもの、名波は終始ご機嫌で足取りも軽かった。
しかしご機嫌だったのは名波だけで、拓馬と隆は名波の後ろを歩いていたこともあり、残っていた生徒たちの注目の的となっていた。こそこそと聞こえる声に顔を背けながら校門から出てきたところだった。
『あれが黒木さんの好きな人?』『あれだけカッコよければ様になるよなー』『相沢と木下殺す』『どっちが本命なんだ?』『もしかして両方本命?』『きっと一日置きにとっかえひっかえよ』『どっちか譲って欲しいわ』『俺たちの名波たんがー』『ヒソヒソ』『コソコソ』
さすがに校門を出てからは、放送した直後と言うこともあって放送を聞いていてコソコソヒソヒソ言う生徒は居なかった。
そしてついに拓馬と隆が名波を問い詰めることができる状況になった。
「おい黒木」
「何、隆?」
「ちょっと待て。なんで下の名前で呼んだ?」
「だって友達でしょ?」
当たり前のように言う名波。どう考えても吹っ切れすぎですね。
それに異議ありと手を上げる拓馬。
「ズルイぞ隆!」
「拓馬だって『隆』って呼んでるじゃん」
「黒木が俺の名前を・・・もっと呼んでくれ!」
「拓馬」
「もう一回!」
「拓馬くん」
「いや、『くん』付けもいいな」
「拓馬」
「戻っちゃった!」
「いいかげんにしろバカ野郎。話が進まん」
何故か盛り上がってしまった拓馬の頭をベシッっと叩くと、名波に向かって指を突きつけた。
「この際呼び方なんてなんでもいい。そんなことよりなんであんなこと言ったんだよ」
「だってこの方が他の人から告白されないからいいでしょ?」
「いいのかどうかわからんが、俺たちが変な目で見られてたのわかんねぇのかよ」
「なにさ。相沢が言い出しっぺじゃん。無理矢理私に放送であんなことやれっていうから、やけくそになって言っただけなのになんで怒られなきゃいけないのさ!」
「お前な、もうちょっと周りのことも・・・」
「うるさい! 相沢だってもうちょっと私のことも考えてよね!」
「はぁ? お前のこと考えてんじゃん」
「全然わかってないよ! もういいよ! 拓馬、帰ろ!」
「お、おい!」
手袋をつけた手で、拓馬の手を取ってスタスタと歩いていく名波。拓馬も名波が急に怒り始めたことに驚いてしまって、手を引かれるままについて行ってしまう。
残された隆は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「くそっ。俺が何したって言うんだよ」
「おい、黒木。どうしたんだよー。隆のところ戻ろうぜー。隆も反省してるってー」
名波に引っ張られながらも説得を続けている拓馬。そんな拓馬の説得も空しく、名波の歩くスピードは変わらなかった。
「ってゆーかなんで怒ってるんだよ。いい加減にしないと俺も怒るぞー」
拓馬は全然起こるタイプではないので、怒り方がわからないが冗談半分で言っているだけです。
しかしそのことを知ってか知らずか、拓馬のその言葉を聞いた名波は速度を緩めた。拓馬もそれに伴って歩くスピードを緩める。
そのまま足を止めた名波の横に並んだ拓馬は、横から名波の顔をのぞき込んだ。
「なんでお前が泣いてるんだよ」
「・・・わかんない」
「わかんないって・・・もう泣くなよー。隆ももう怒ってないって。だから戻ろうぜー? な?」
目の前で泣かれてしまい、どう対応したらいいのかわからずとりあえず慰めてみた。が、意外と強情な名波は、首を横に振ってポロポロと涙を流すだけだった。
「もうどうしたらいいんだよー・・・」
「私、拓馬と帰る・・・」
「そんなこと言うなって。隆のところ戻ろう?」
「だって絶対怒ってるもん・・・」
「どんだけ意固地になってるんだよ。隆だってお前が急に名前で呼んだりするから照れてるだけだって。そのくらい黒木だってわかってるんだろ?」
「うー・・・」
黙ってうつむき続ける名波。
「・・・とりあえず駅まで行くか」
首を縦に振る名波。
もはやカップルと言うよりも、迷子の子どもを保護しているお兄さんのような感じになってきた拓馬。
手袋越しではあるが、名波と手をつなげて嬉しいはずなのだが、拓馬は全然嬉しさとかドキドキを感じていなかった。
『俺、なんでドキドキしてないんだ? 仮にも好きな子と手を繋いで歩いてるんだぞ?』
自分が不感症なのではないかと頭の中で考えながら、名波の手を引いて駅まで歩いていく。
少し歩いたところで名波が急に足を止めた。
「ん? なした?」
「恥ずかしい」
「は?」
「こんなに泣いてるところ誰かに見られるの恥ずかしい・・・」
「何を今更。もう駅はすぐそこだぞ? どこに行くってのさ」
「・・・戻る」
「隆のとこにか?」
「・・・違うところがいい」
「はぁ?」
煮え切らない態度の名波にだんだんとイライラしてきた拓馬。しかしここで怒ってはまた面倒になると思い留まる。
「じゃあそこらの公園でも行くか? 雪だらけだけど」
「うん」
「よし。じゃあ行くか」
そう言って来た道を少し戻り、目的の公園のある方向へと歩いていく。
その時ポケットに入れていた携帯がブルブルと震えた。
名波に見えない位置で確認すると、隆からのメールだった。
『今どこにいる? ってゆーか帰ったか?』
すぐに公園に向かっていることを返信すると、携帯をポケットの中に入れた。
「黒木。隆も来るってさ」
「・・・帰る」
「ここまで来て何言ってんだ。ほら、行くぞ!」
「いやだ・・・帰る・・・」
「ふざけんなっ!!」
突然、大声を上げた拓馬に驚いて、目を丸くして顔を上げる名波。
「いい加減にしろよコノヤロー! こっちの身にもなってみろ! 明日から冬休みだからちょっとハメはずそうかと考えてたら目の前でケンカしやがって! こんな状態で冬休みに入れるかってんだバカヤロー!」
名波を指さしながら大声で怒鳴りつける拓馬。幸い周りに人が居なかったので、迷惑はかけていません。
そして我を忘れた拓馬は、ここにいない隆のことまで怒り出した。
「隆も隆だ! なんで照れてわけわかんねーこと言ってんだ! それで言い合いになってケンカだ? バッカじゃねぇの! そんなバカ2人とはこっちから友達解消してやる!!」
怒鳴り散らす拓馬。それをただ見ている名波は、こんな拓馬を早く隆に止めてもらいたいと思うことしかできないのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると踊り狂います。
名波と隆がケンカしたら、拓馬が壊れました。
さてはてどうなるのやら。
次回もお楽しみに!