名波の放送
バカ先輩こと春樹の電話番号を有紀から半ば無理矢理聞き出した隆は早速電話をかけた。
『もしもし。どちら様ですか?』
「黒木が困ってるんだ。手を貸してくれ」
『よし。今行く』
それだけ言って電話を切った。
解散してもファンクラブ魂は消えていないようで、春樹はものの数十秒で隆たちがいる教室へとやってきた。
「さすが先輩」
「君に呼ばれるのは少し癪だけど、今はもう関係ないからね」
「ん? もうやめたのか?」
「まぁそんなところかな」
「へぇ。まあいいや。で、もしかしてだけど生徒会長もなのか?」
「まぁね」
「これは好都合だ」
春樹だけでなく、元生徒会長である康人も一緒に来ていた。
隆は名波を隠れて応援している存在について薄々感づいていたみたいで、春樹もその一人だと言うことに気がついていました。
「隆。何するんだ?」
「振るだけなのにこっちから出向くのが大変って話だろ? だったらまとめて言ってやればいいんだよ。別に明日から冬休みなんだから問題ないだろ」
全く意味が分からずに呆然とする拓馬、名波、有紀、春樹の四人。康人は考えていることが分かったらしく、ニヤリと笑っている。
「なるほど。じゃあ俺が必要じゃないか?」
「さすが生徒会長ですね」
「元だけどな」
「じゃあ早速行きましょうか」
「よし。俺鍵借りてくる。操作は俺も出来るから問題ない」
そう言って急いで教室を出ていく康人。
呆然としている四人のほうを見た隆は、とりあえず付いてこいとだけ言って、RPGのパーティのように四人を引き連れて教室を出た。
放送室の中に入った四人は先に来て準備をしてくれていた康人と合流をした。
「なんで放送室?」
「まぁもう少しで準備が終わるはずだからちょっと待ってろ」
「相沢ー。いつでも大丈夫だぞー」
「なんでも出来るんですね」
「それが生徒会長だからな。なめんなよ」
元生徒会長が、今までの権限を行使しまくって放送室を借りました。
今までのファンクラブで裏方に回ってばかりいた男性幹部の本領発揮と言うやつですね。
「黒木。入れ」
そう言って、名波をマイクのある室内へと押し込む隆。
なんとなく嫌な予感がしていた名波は、覚悟を決めたかのようにマイクの前の椅子に座った。
隆の考えた作戦というのは、校内放送で名波に全員をフッてもらうというものだった。さすがに隆達だけだと放送室を使うのは無理なので、何かと権力がありそうな人間だと狙っていた春樹を呼び出したというわけである。そこに前生徒会長が付いてきたのは隆にとっては嬉しい誤算だったが、全ていい方向に働いたので結果オーライだった。
その作戦を名波に伝えた隆は、防音ガラス越しにマイクを使って話しかける。
「よし。黒木。何するかわかったな」
『うん。でもこれってちょっとやりすぎじゃない?』
「バカ。ここでお前がスピーチめいたことをやれば、怒られるのはお前だけだから安心しろ」
『ちょっと! 全然安心できないんですけど!』
「冗談だバカヤロー。責任は全部この先輩が取ってくれるはずだ」
「僕に押し付けるのかっ!?」
「まぁ春樹。これで最後だと思ったらいい青春じゃないか」
「これから受験なのに・・・内申点が・・・」
「これからの未来と今の青春。どっちを取るんだ!」
「わかったよ! 今の青春に決まってるだろ!」
康人に叱咤激励(?)された春樹は全責任をとる宣言をした。
それを聞いた隆はニヤリと笑い、名波に告白の返事をさせることを促した。
ピンポンパンポーン。
放送室内に放送開始を告げる音が鳴る。ちなみにこの音を鳴らしたのは拓馬だ。
そしてウグイス嬢と化した有紀が放送部っぽくアナウンスを始める。
『ただいまより、黒木名波さんからのお話があります。関係のある人はもちろん、そうでない方も心ゆくまでご堪能ください』
『えーと、はじめまして。黒木名波です。本日は放送を勝手に使ってしまってごめんなさい。でもこの場を借りて一つだけ言いたいことがあります』
ガラス越しに名波を見守る5人。
ガラスの向こうでは緊張しているのか、両手を強く握って話している名波の姿がある。
『私にラブレターを送ってくれた人。ありがとうございます。お気持ちは嬉しいんですが、私は顔も分からない人と付き合うことはできません。お断りさせていただきます。ごめんなさい』
「よく言った!」
「頑張った!」
「よし」
元ファンクラブの3人が声を上げて名波の頑張りを称えた。
拓馬と隆も互いの顔を見合わせて笑顔を作る。
しかし、名波はマイクに顔を向けたままこちらに顔を向けようとしない。そして名波の話はまだ続く。
『もしも顔が分かったとしても、付き合うことはありません。なぜならば、私には好きな人が居るからです!』
「「「なんだってー!」」」
驚愕の元ファンクラブの3人。
『なので私に告白をしても無駄ですからー! 残念っ! 終わります!』
ちょっと古いギャグで締めくくった名波は満足気な笑顔で、ガラス越しに拓馬と隆を見た。
顔を向けられた二人はどうしていいものかと、満面の笑みに苦い笑顔を返した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜んで豆乳買い占めてきます。
名波が好きなのは拓馬と隆の二人ですからね。
決して片方だけではないので、ご安心ください(?)。
次回もお楽しみに!